つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 110     (C) 2003 筑波大学生物学類

新規FKHRサブファミリーの同定

宗片 圭祐 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:坂本 和一 (筑波大学 生物科学系)


【導入・目的】

FKHR(forkhead in rhabdomyosarcoma)は、アポトーシスの誘導に関与するフォークヘッド型転写因子の一つで、横紋筋肉腫(rhabdomyosarcoma)において多くの変異が認められることからにガンの抑制に関わると考えられている。FKHRは、インシュリンシグナル伝達経路の下流において活性化され、PI3Kを経てプロテインキナーゼのAktによりリン酸化されることで機能が抑制される。これまでの研究によりFKHRはアポトーシス誘導因子であるBimFasL、細胞周期の停止に関与するP27Kip1などの転写促進を行うことが知られている。これまでにFKHRには特異的なフォークヘッドドメインを持つFKHRFKHRL1AFX3種類のサブファミリーが同定されている。一方、本研究室では、ゲノム解析によりFKHR特異的なフォークヘッドドメインに類似した領域を持つ新規FKHR遺伝子の存在を明らかにしている。そこで本研究では、新規FKHRファミリーのcDNAを単離し、生理機能と作用の分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。

【方法】

新規FKHR遺伝子のフォークヘッドドメイン領域に特異的なprimer(S2)を作成し、ヒト精巣のcDNA library を鋳型にし、3RACE法によりC末端cDNAクローンの単離を試みた。また、新規FKHR遺伝子の3’非翻訳領域に特異的なprimer(A3)を作成し、S2 primerA3 primerとを用いてヒト精巣 cDNA library を鋳型にしてPCRを行った。得られたDNA断片をPUC19Hinc・サイトに組み込んでサブクローニングを行い、それぞれのcDNAの塩基配列の決定を行った。さらに、フォークヘッドドメインに特異的なcDNA断片(300b)と新規FKHRに特異的なC末端領域を含むcDNA断片(2kb)Bca best法を用いて[α-32PdCTPで標識し、コロニーハイブリダイゼーションを行った。

【結果・考察】

上記の実験の結果、3’RACE法により400bcDNA断片が得られ、またPCR法によりC末端領域を含む2kbcDNA断片が得られた。これらのcDNAの塩基配列を調べたところ、3’RACE法により得られたcDNA断片にはイントロンがなく、C末端領域を含むcDNA断片には一つのイントロンが確認できた。また、どちらのcDNAもフォークヘッドドメインを後半から欠いており、新規遺伝子には2種類またはそれ以上のisoformが存在することが予想された。現在、得られたprobeを用いてヒト精巣cDNA libraryのコロニーハイブリダイゼーションを行っているところである。今後、全長cDNAクローンが得られ次第、アポトーシス誘導作用、細胞内局在、BimFasLP27など標的遺伝子への転写レベルでの作用を調べる予定である。