つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2: 130-131.

特集:卒業・退官 最終講義

ムクドリの種内托卵

斎藤 隆史 (筑波大学 生物科学系)

 ムクドリの繁殖期は、温帯地方の多くの種と同じように二峰型であり、第一の峰を中心とした繁殖時期が前期であり、第二の峰の時期が後期である。前期と後期の個体群はいくつかの点で異なっている。前期個体群の番数はほぼ一定であるのに対して、後期個体群の番数は年によって変動した。繁殖結果に関しては、平均一腹卵数、一腹雛数、巣立ち雛数は前期が後期より有意に多いため、繁殖にとっては後期より好適な時期である。しかしながら、前期は種内托卵率が後期より有意に高く、1巣当たりの托卵数も多いため、托卵に関しては不利な時期である。

 大きな相違は個体群構成にみられる。前期の個体群は、前年の前期で繁殖した連続前期繁殖個体が1/2強、初めて調査地で繁殖する新移入個体が1/3弱である。その他に、前年の後期で繁殖したが、前期に移行してきた個体、2年以上前の前期あるいは後期で繁殖した個体および足環を確認できなかった経歴不明個体から構成されている。したがって、前期個体群の大部分は調査地で繁殖の経験がある個体から構成されている。一般に、多くの種の後期個体群は、大部分が第一回繁殖に失敗し、再営巣した個体および第一回繁殖に成功し、第二回繁殖をする個体のように、ほぼすべてが前期個体群の一部で構成されている。しかし、ムクドリの場合は後期個体群を構成する前期繁殖個体の割合は1/3にすぎず、前期で繁殖しなかった新移入個体が2/5強を占める。その他に、前年の前期で繁殖したが、後期に移行した個体、連続後期繁殖個体、2年以上前の前期あるいは後期で繁殖した個体および経歴不明個体である。したがって、後期個体群の大部分は前期で繁殖していなかった個体から構成されている。また、前期の番数に対する後期の番数の割合と前期の托卵率の間には正の相関があった。前期の番数はほぼ一定であるから、後期の番数が多いと托卵率が高いのである。

 種内托卵が前期に多いことは、前期に托卵をする余剰個体が多いことを示唆している。そこで、いくつかの野外実験を行った。最初の実験は繁殖期内の巣箱増設実験である。大部分の前期繁殖個体が抱卵を開始した4月下旬に10個の巣箱を常設巣箱(170個)の間に架設した。この時期は、ほぼすべての常設巣箱は占有されていて、すべての新設巣箱は5日以内に産卵された。次ぎに、前期の雛の孵化が始まった5月上旬に10個の巣箱を架設した。この時期もほぼすべての常設巣箱か占有されていて、すべての新設巣箱は1週間以内に産卵された。両時期に新設巣箱を占有した個体はすべてこの時点で常設巣箱を占有していなかった個体である。最後に、多くの後期繁殖個体が産卵を開始した6月中旬に50個の巣箱を架設した。この時期は前期の雛が巣立ち、常設巣箱の占有率は50%であり、どの新設巣箱は占有されなかった。したがって、少なくとも巣箱の占有率が高い前期の抱卵期や孵化期に巣箱を占有できない余剰個体がいることは明らかである。

 第二の実験は繁殖期の開始前に巣箱の増設と除去を行い、個体群構成や托卵率の変化を調べた。3月上旬に70個の巣箱を増設した年は、前年に比べて、連続前期繁殖個体の割合が有意に低くなり、新移入個体の割合が有意に高くなった。さらに、托卵率が有意に低くなり、1巣当たりの托卵数も少なくなった。巣箱の増設により、余剰個体が巣箱を占有できた結果、新移入個体の割合が増え、托卵率が低くなったと考えられる。また、巣箱の占有率と托卵率の間には正の相関があり、托卵は営巣場所の不足に関連しているとことを示唆している。翌年に60個の巣箱を除去した年は、増設年に比べて、新移入個体の割合が有意に低くなり、托卵率も有意に高くなった。巣箱の除去が巣箱を占有できない余剰個体を増やした結果、新移入個体の割合が減少し、托卵率を増加させたと考えられる。

 最後に、トラップによる余剰個体の捕獲を試みた。予備実験の年は前期の孵化期から後期の産卵期に、翌年は前期の産卵期から後期の産卵期に行った結果、巣箱の占有率が高いと1日当たりの捕獲数も多かった。大部分の捕獲個体は新移入個体であり、前期の孵化期に捕獲された個体の一部は後期で繁殖し、前期の余剰個体が後期の個体群を構成していることを示唆した。したがって、ムクドリの場合は、巣箱を占有できない余剰個体が種内托卵を行っていて、その後に後期個体群を構成すると考えられる。

Contributed by Takashi Saitou, Received February 20, 2003.

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