つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 7: 310-311.
シリーズ:国立大学法人化
連載「国立大学の独立法人化を考える」 ―第1回 国立大学法人法の概要―
浦山 毅
(共立出版編集部)
2003年7月9日国立大学法人法が成立し、国立大学はこれまでの国による直接統治を離れて、2004年4月1日から「法人」となることが決まった。このことは大学史上に残る大きな出来事であるはずだが、法案成立までの期間、大学関係者からの実りある発言はそれほど多くなかった[1][2][3]。新聞紙上やインターネット上でときどき話題にはなったが、部外者による的はずれな論理や白紙撤回論など非建設的な主張も多く[4]、大学の苦悩する姿を肌で感じることがないまま法律が成立してしまった。 大学改革の必要性は多くの人が認めるところだろう。今回の法人化は、表向きは大学改革をうたっているが、裏側では政界や産業界の思惑が複雑に絡まりあっている。法人化の問題点はいろいろなメディアで披露されているが、それらは実際に大学に籍を置く人たちにとって本当に有意義な議論になり得ているだろうか。もっと現実に即して考える必要があるのではないだろうか[5]。 この連載では、できるだけ大学人と同じ視線でこの問題を考えてみたい。だが、いまだに大学に興味があるといっても、いかんせん私自身はすでに20年以上も前に大学を卒業してしまった。そこで、この連載に触発されて多くの大学人に補強ないしは反論する形でぜひ原稿をお寄せいただきたいと思う。まずは、法人法の概要を「国立大学法人法」の条文をもとに見ていくことにしよう[6]。 <1> 総則 法人化の目的を述べた条項には、「大学の教育研究に対する国民の要請にこたえるとともに、我が国の高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図るため」とある。この目的を達成する国立大学を設置するために、「国立大学法人」(89法人)がまず本年10月1日に設立される。同時に設立される法人として、大学共同利用機関を設置するための「大学共同利用機関法人」(4法人)があり、この2つの法人は同じ法律の中で定義されている。 国は、この法律の運用にあたっては「教育研究の特性」につねに配慮しなければならないと定めているが、肝心の特性の中身や配慮の具体的方法についてはまったく触れられていない。 名称として、たとえば筑波大学は「国立大学法人筑波大学」に改称する。その際、国立久里浜養護学校を組み入れる。ほかに、いくつかの国立大学や大学共同利用機関がこれを機に統合され、改称する(表1、表2)。 表1 統合され改称する国立大学(下の2つはすでに統合済み)
表2 統合され改称する大学共同利用機関
法人の資本金は政府からの出資金を充てるが、政府は、いつでも追加出資できるし、法人が土地を売って得た収入を独立行政法人国立大学財務・経営センターに納付するよう指示できる、などとなっている。 <2> 評価委員会 文部科学省に「国立大学法人評価委員会」を置く。任務として、各法人の業務実績に関する評価などの事務を司る、となっている。委員の顔ぶれ、人数、選出方法、業務基準などは政令で定めるとなっているが、詳細はどこにも見あたらない[7]。 教育研究面の評価に関しては、この法人法には具体的な記述はないが、おそらく独立行政法人大学評価・学位授与機構が引き続き評価を行なうことになるだろう。国立大学法人評価委員会は、この評価結果を尊重するとともに、総務省の独立行政法人評価委員会に結果を通知し、統廃合についての勧告を仰ぐことになっている。 大学の予算は、文部科学省からの運営費交付金でまかなわれるが、今後、この評価結果によっては大幅に減額されることもありうる。すでに文部科学省は2002年度から21世紀COEプログラム[8]を始動させており、優秀と評価される研究には多くの予算を配分する処置をとりはじめている。 <3> 国立大学法人の役員 各法人には、役員として、学長1人、監事2人、理事(定数以下。定数は4〜9人で、筑波大学の場合は定数8人)を置く。役員の資格は、「人格が高潔で、学識が優れ、かつ、大学における教育研究活動を適切かつ効果的に運営することができる能力を有する者」と定められている。 学長は、学長選考会議の場で委員の互選によって選出され、文部科学大臣に任命されて決まる。任期は2年以上6年未満の範囲内で学長選考会議が定める。 監事は、法人の業務を監査し、文部科学大臣に意見を提出することができる。文部科学大臣が任命し、任期は2年である。 理事は、学長を補佐し、学長が事故のときは業務を代行する。学長が任命し、任期は6年未満で学長が定める。 監事および理事には学外者を含めなければならない。役員は再任できる。それぞれ任命できる者が解任もできる。 <4> 国立大学法人内に設置される委員会 「学長選考会議」は、経営協議会と教育研究評議会から選ばれた同数の委員で構成される会である。学長と理事を加えてもよいが、全委員数の3分の1を超えてはならない。この会議は、学長の選出や解任を文部科学大臣に申し出ることができる。 「役員会」は、学長と理事で構成される会で、中期計画の作成、予算の作成、学部や学科や附置研究所といった組織の設置や廃止などに関しては、この役員会の議を経なければ決定できない。 「経営協議会」は、学長と、学長が指名する理事と職員、それに大学に関して広く高く識見を有する学外者(教育研究評議会の意見を聴いて学長が任命する)で構成される会で、組織・運営状況の自己点検や第三者評価など、法人の経営に関する重要事項を審議する。委員の半数以上は学外者で占めなければならない。 「教育研究評議会」は、学長と、学長が指名する理事と職員、それに学部長・研究科長・附置研究所長などのうち本評議会が定める者で構成され、中期計画、教員人事、教育研究の自己点検や第三者評価など、国立大学の教育研究に関する重要事項を審議する。 <5> 国立大学法人の業務 法人の主業務は「国立大学を設置し運営すること」であるが、それ以外に、学生の相談に応じること、学外者から委託を受け共同で研究すること、学外者と連携して教育研究すること、研究成果の普及や活用促進に努めること、公開講座などを通して国民に学習の機会を提供することなどが定められている。 このほか、政令で定める研究成果活用促進事業者に出資することができるとなっているが、その場合は、文部科学大臣の認可(大臣は評価委員会の意見を聴く)が必要である。なお、法人は長期借入や債権を発行できるようになるが、その際は償還計画を立てて文部科学大臣の認可(大臣は評価委員会の意見を聴く)を受けなければならない。なお、法人は債権発行業務を銀行か信託会社に委託することができる。 <6> 授業料 文部科学省令で定めるとなっているが、すでに述べたように省令が見つからないので詳細はわからない。だが実際は、文部科学省が定める標準額と範囲のうちで、法人が定めることになる。文部科学省が8月下旬に発表したところでは、標準額は平成15年度の国立大学の授業料と同じ520,800円(ちなみに入学料は282,000円)で[9]、範囲としては上限が10%アップまで、下限は定めずとなっている。 <7> 中期目標と中期計画 文部科学大臣は、あらかじめ法人の意見を聴き、それに配慮しながら、評価委員会の意見を聴いたうえで、法人が6年間に達成すべき業務運営目標を「中期目標」として定める。中期目標の中身は、教育研究の質の向上、業務運営の改善と効率化、財務内容の改善、教育研究・組織運営の自己点検・第三者評価とそれら状況の情報提供など、業務運営に関する重要事項となっている。 法人は、提示された中期目標に基づいて、その目標を達成するための「中期計画」を作成し、文部科学大臣の認可(大臣は評価委員会の意見を聴く)を受けたうえで、実行に移す。中期計画の中身は、目標を達成するために採るべき措置のほか、資金計画や短期借入金の限度額、剰余金の使途など、文部科学省令で定める業務運営に関する事項となっている。 <8> 附則 新しい制度に移行するにあたって、附則が設けられた。それによると、学長は、現国立大学の学長をそのまま文部科学大臣が指名してスライドさせる。任期は各学長の残任期間と同じにする。また、国が有する権利、義務、財産は、原則として法人が引き継ぐ。 統合によって廃止される大学や短期大学に現在在学している学生に対しては、その大学を卒業し学生がいなくなる日まで、当該の法人が面倒を見ることになる。 <9> 職員の身分 国立大学法人は非公務員型なので、現国立大学の職員(国家公務員、約12万3000人)は原則として退職したものとみなし、新たな国立大学法人の職員になる。すなわち、労働三法の適用を受けられるようになる。ただし、辞令によってその限りでない者が出る、という[10]。 参考文献
Contributed by Takeshi Urayama, Received August 26, 2003, Revised version received September 1, 2003.
©2003 筑波大学生物学類
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