つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

Rhodococcus equi A-1株が生産するウレタン結合切断酵素の精製と諸性質の解明

山田 智盛(筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 神戸 敏明(筑波大学 応用生物化学系)


 
 目的
 現在、我々の生活に広く普及しているプラスチックは、ひとたび廃棄物となると、その難分解性ゆえに様々な問題を引き起こす。これに対する解決策として、様々な生分解性プラスチックの開発がすすめられている。一方、既存のプラスチックの中でも、ポリウレタン(PUR)は比較的微生物劣化を受けやすく、数種の分解微生物が単離されている。
 PURとは、分子内にウレタン結合(-NHCOO-)を有する高分子化合物の総称であり、主にイソシアネート(OCN-R-NCO)とポリオール(HO-R’-OH)の付加重合によって合成される。また、ポリオールにポリエステルを用いたものは「エステル型PUR」、ポリエーテルを用いたものは「エーテル型PUR」に分類される。これまでに、エステル型PURを分解する微生物は比較的多く報告されているが、エーテル型PURについてはほとんど報告がない。PUR分解はPUR中の主要成分であるポリオールを分解することによって行われる。ポリエステル分解酵素はエンド型であるため、ウレタン結合が存在しても、ポリオールを切断することができる。一方、ポリエーテル分解酵素はエキソ型であり、分子末端がウレタン結合でふさがれていると、ポリオールを分解することができない。しかし、エーテル型PURの構成成分であるポリエーテルは、微生物により分解を受けることがわかっている。すなわち、エーテル型PURであっても、分子内のウレタン結合を切断することができれば、その後ポリエーテル分解菌の作用によって完全分解させることが可能となる。
 Rhodococcus equi A-1株は、低分子化合物中のウレタン結合を切断することができる微生物として、当研究室の安達によってスクリーニングされた。しかし、A-1株が生産するウレタン結合分解酵素がPUR中のウレタン結合を切断できるか、といった点等に関しては未だ不明であり、分解酵素に関するさらなる研究が期待されている。
 そこで、本研究ではA-1株が生産するウレタン結合切断酵素を精製すること、およびその諸性質を解明することを目的とした。


 方法
 -80℃で凍結保存されたA-1株を、NB平板培地に植菌し、約24時間30℃にて培養したのち、培地上の菌体すべてを3mlの生理食塩水に縣濁した。これを、500ml三角フラスコ中のDavis改変培地100ml 2本に等量ずつ植菌し、30℃にて24時間振盪培養を行った。その後、1LのDavis改変培地(0.1%のアセトアニリドを添加)を入れた3L三角フラスコに前培養液を100mlずつ移し、30℃で36時間振盪培養を行った。得られた培養液を、8,000rpmで10分間遠心分離に供し、菌体を約20mlの20mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0)に縣濁した。
 こうして得られた菌体縣濁液を、3回のフレンチプレスに供し、破砕を行った。これを20,000rpmで30分間遠心分離し、回収した上清を粗酵素液とした。
 粗酵素液に40%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し、氷上で30分間攪拌した。これを15,000rpmにて15分間遠心し、上清を回収して同様に60%硫安沈殿を行った。遠心分離後の沈殿を3mlの20mMリン酸カリウムバッファーに溶解させた。
 さらに、HiTrap脱塩カラムおよび、RESOURCE Q, 6ml(Amersham Biosciences社製)を用い、酵素の精製を試みた。


 結果と考察
 粗酵素液をSDS-PAGEに供したところ、アセトアニリドを添加したときにのみ分子量約50,000のバンドが濃く現れ、また同時に、高いアミダーゼ活性が認められた。このことから、この分子量約50,000のタンパク質が目指す酵素であると考えられた。
 今後さらに精製条件の検討を行うとともに、精製酵素の諸性質を調べていく予定である。