つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

安定同位体比及び脂肪酸組成を用いた鍋田湾潮間帯における食物網の解析

飯田 由起子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 濱 健夫 (筑波大学 生物科学系)


【目的】 潮間帯に生息する多種多様な生物間の複雑な栄養段階を、安定同位体比と脂肪酸組成により解析することを目的としている。

【はじめに】 従来の生物の栄養段階、つまり食物連鎖・食物網の関係の解析には、観察や内容物分析が主になされてきた。だが、これらの方法には、正確さを求めるためにはより多くの生物サンプルを必要とする。今回用いた安定同位体分析法・脂肪酸組成分析法には、少量の生体サンプルで情報が得られるという前者の欠点を補う利点と、統一した規準により解析できるという利点を併せ持つ。安定同位体法での栄養段階の位置付けに関しては窒素安定同位体比が有効であり、今までなされてきた研究結果から栄養段階が一段階上がる毎に約3.3±1‰増加するということが知られている。さらに、脂肪酸組成については、捕食者の脂肪酸組成が被食者の脂肪酸組成を色濃く反映するということが確認されてきている。これらの考えを基にして、多種類の生物が複雑な食物網を構成している潮間帯において、個々の生物の栄養段階を位置付けることを目的として実験を行った。

【方法】 筑波大学下田臨海実験センター前の鍋田湾の潮間帯より2003年6月20日に生物試料(植物・動物・動物プランクトン・懸濁態有機物{POM})を採取し、分析まで−20℃で冷凍保存した。安定同位体の分析は、冷凍保存したサンプルを少量とり、60℃のオーブンで24〜48時間乾燥させた。腹足類やヤドカリなどの殻をもつ生物は、解凍してから殻を取り除き、無機炭素を除く為にHClの蒸気に一晩かざしてから乾燥させた。乾燥させた試料を乳鉢で細かい粉末状にすりつぶし、乾燥重量で植物は3mg、動物は2mg程度をスズ箔に詰めた。これらの試料の炭素・窒素安定同位体比は元素分析計を連結した同位体比質量分析計により測定した。 脂肪酸組成分析は、湿重量で植物200mg・動物60mg程度の試料を用い、クロロフォルムメタノールで脂肪酸を抽出してガスクロマトグラフ、ガスクロマトグラフ/質量分析計で測定した。

【結果・考察】 安定同位体分析法の結果では窒素安定同位体比が6〜10‰、炭素安定同位対比が−15〜−10‰の値に集中していた。脂肪酸組成分析の結果では炭素数18の不飽和脂肪酸およびC16:0・C20:4が多く見られた。窒素安定同位体比は、図1に示すように、3つのグループに分けることができた。一次生産者である藻類はδ15N値が低く、より高次の栄養段階に属する生物になるに従ってδ15N値が高くなるという傾向が認められた。



図 1 鍋田湾潮間帯に生息する各種生物の窒素安定同位体比(δ15N)および炭素安定同位体比(δ13C)