つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004筑波大学生物学類

ヨツモンマメゾウムシの産卵行動における地理的変異の比較

石田 健太郎 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 徳永 幸彦 (筑波大学 生物科学系)


背景

 ヨツモンマメゾウムシ Callosobruchus maculatus は豆を寄主として利用するコウチュウ目の昆虫で、世界中に広く分布するコスモポリタン種である。 幾つかの形質について地域的変異が知られており、各々の地域系統を特徴づけている。 これらの地理的変異は原産地の環境への適応と、遺伝的浮動により生じたものである。
 本研究では産卵分布の変異に着目し、幼虫の競争能力との関係から、これらの変異に対して適応的な解釈をすることができるか否かを調べた。 ヨツモンマメゾウムシは産卵忌避物質の存在により、過寄生を避ける傾向があり、その結果として均一に卵を分布させるという行動を示す。 卵は豆の表面に産みつけられ、羽化するまで豆の中で発育する。 複数の幼虫が1つの豆の中にいる場合、資源をめぐる幼虫間の競争が生じる。 成虫時の活動に使う全てのエネルギーは、豆の中にいる幼虫期に摂取するので、母親の寄主選択には、幼虫間競争を避ける、緩和するという点で選択圧がかかると考えられる。 所与の環境において重複すること無く、均等に卵を分布させることが肝要となる。 競争が厳しければその適応的意義も大きくなるだろう。 一方で均等に卵を分布させるにはそれなりのコストが存在するかもしれない。 例えば、寄主の探索に時間をかけていては、他個体に先を越されて産卵されてしまう恐れがある。 これらのことから、産卵分布の均一度と幼虫間競争の程度には、競争が厳しいほど均一度が高いという正の相関関係が期待される。 本研究では両変異を定量的に測定し、その相関関係を調べた。

材料と方法

 ヨツモンマメゾウムシ Callosobruchus maculatusの8つ地理的系統について産卵分布の均一度、幼虫間競争の程度を定量的に測定した。 寄主には緑豆Vigna radiataを用いた。 産卵分布については、雌1匹に豆40個を与え約40個(37-43個)の卵を産卵させ、観察された卵分布と完全均一分布との差異を誤り数として均一度の指標とした。 幼虫間競争の程度は、C-valueという指標を用いた。 C-valueとは集団中のコンテスト型競争者の頻度である。 初期幼虫密度が1匹のときの生存率と2匹のときの生存率から最尤法により算出される。 初期幼虫密度が2匹の時に、2匹とも生き残る確率が低いほど競争は厳しく、大きなC-valueの値となる。

結果と考察

 全96個体中の94個体(97.9%)の産卵分布がポアッソン分布と有意に異なっており、より均一な分布になる傾向を示した。 これは寄主の選択がランダムではなく、既に産卵されている豆を避ける傾向があることを意味する。 誤り数、C-valueともに有意な系統間の差異が存在した。 しかし両指標には有意な相関関係は認められなかった。 ただし、幼虫間競争が弱く均一度が高い系統はいるが、幼虫間競争が激しく均一度が低い系統はいなかった。
 以上の結果から、幼虫間競争の激しさが選択圧となり、高い均一度が維持されているが、競争が弱いと産卵分布を均一なものにする選択圧も弱まるため、 他の選択圧や遺伝的浮動の効果が相対的に大きくなり、産卵分布に関する形質が変化しやすくなるのではないかと考えられる。