つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

導管液レクチンの遺伝子発現および機能の解析

岩崎 千春 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 佐藤 忍 (筑波大学 生物科学系)


《背景》
 レクチンはもともと赤血球を凝集させる物質として植物から発見された。レクチンは「炭水化物を認識して可逆的に結合する性質のある抗体以外のタンパク質(ただし酵素は除く)」と定義され、動物、植物、微生物に広く分布し、多種多様なものが発見され、構造が明らかにされている。
 その中で、植物レクチンは今までに多くの植物種で見い出されている。植物レクチンの主な生理作用として現在考えられているのは、外敵に対する防御的役割である。しかし、植物レクチンが植物自身に対してどの様な生理作用を果たしているかについては、わずかな例しか明らかになっていない。
 キュウリ導管液中に存在するレクチンタンパク質の遺伝子としてXSP30が同定された。XSP30遺伝子の発現は根特異的である。その発現は地上部器官の存在に依存しており、地上部の受ける光の周期に依存した日周変動性を示す事が分かっている。その際、葉から供給されるジベレリンによってそのリズム発現の振幅が促進的に制御されている。また、XSP30は、N結合型糖タンパク質糖鎖(GlcNAc)2に結合し、その標的糖鎖は葉の葉肉細胞に多いことが分かっている。これらのことから、導管液レクチンが根から地上部器官への何らかのシグナルとして機能している可能性が考えられる。
 XSP30は広く生物界において分布しているRicin_B_Lectin domainを持つガレクチンファミリーに属し、CAZyデータベースに登録された。ガレクチンは発生、分化等の多岐にわたる生命現象に関与することが知られており、XSP30も植物の発生に重要な機能を有しているのではないかと考えられている。
 本研究では導管液中に存在するレクチンが、植物体においてどのような生理的役割を果たしているのかを明らかにすることを目的としている。この研究を通して、植物の器官間相互作用を通した個体統御機構の一端を明らかにしたいと考えている。
《方法》
○XSP30遺伝子の発現解析
 アグロバクテリウムを介して、XSP30プロモーター領域にレポーター遺伝子であるGUSを連結した遺伝子を形質転換が容易なタバコに導入した。GUS染色し、テクノビット樹脂に包埋して組織切片を作製、光学顕微鏡で観察した。
 キュウリと同じウリ科のメロンにおいても、子葉切片に対しアグロバクテリウムを感染させ、形質転換体の作出を試みた。
○XSP30の機能解析
・大腸菌を用いたXSP30組換えタンパク質の生産と精製
 精製時に用いるHis-Tagと翻訳産物が大腸菌のペリプラズム領域(外膜と細胞質膜の間)に分泌されるためのシグナル配列を持つpET27ベクターに、シグナル配列を除いたXSP30を組み込んだ。コンストラクトをタンパク質発現用大腸菌BL21 DE3 pLysSに形質転換し、IPTGを添加してタンパク質を誘導した。
・Ricin_B_Lectin domainの調査
 NCBI、TIGR、CAZy等のデータベースを用いて、XSP30が持っているRicin_B_Lectin domainの高等植物における分布を調査した。
《結果・考察》
○XSP30遺伝子の発現解析
 タバコにおけるXSP30の発現は、地上部器官では確認されず根特異的であった。その中でも根毛帯の分化しつつある導管細胞、導管周辺の細胞で強い発現が、中心柱全体で弱い発現が観察された。このことから、根毛で吸収された水が導管へ流入する時に、導管周辺の細胞で生産・分泌されたXSP30も導管中へ流れていることが考えられた。今後はメロン、キュウリにおけるXSP30の発現解析も行う予定である。  
○XSP30の機能解析
 SDS-PAGEにより、目的の組換えタンパク質の誘導を確認した。今後はHis-Tagを用いてタンパク質を精製し、活性特性の調査を行う予定である。
XSP30が持つRicin_B_Lectin domainは、高等植物において広く分布することが分かった。XSP30はこのドメインを二つ持つ。ドメインを一つ持つもの、二つ持つものがあり、それぞれに属するタンパク質は近い系統関係にあった。Ricin_B_Lectin domainの調査、解析を通して、XSP30の機能解析へと繋げていきたい。