つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

活性酸素を発生させる除草剤によるアスコルビン酸−グルタチオンサイクル酵素の誘導

上田 奈津子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 松本 宏 (筑波大学 応用生物化学系)


【背景】
 活性酸素を発生させることで植物を枯死させる除草剤には、主にパラコートに代表されるビピリジリウム系剤とジフェニルエーテル系などのプロトポルフィリノーゲンオキシダーゼ(Protox)阻害剤がある。
 ビピリジリウム系剤は、光化学系T末端から電子を奪ってラジカルになり、さらにO2に電子を渡してスーパーオキシド(O2・-)を発生させ、自らはもとに戻る。ジフェニルエーテル系剤は、葉緑体のクロロフィルやヘムを合成するテトラピロール合成系のうち、プロトポルフィリノーゲン\からプロトポルフィリン\への反応を触媒する酵素であるProtoxの活性を阻害する。この阻害により、最終的に光増感物質であるプロトポルフィリン\が細胞質に蓄積し、光エネルギーを吸収することでO2と反応し、1重項酸素(1O2)を発生させる。
 これまでの研究から、植物の抗酸化酵素の活性がこれらの除草剤に対する抵抗性に関与することが明らかにされている。

【目的】
 ビピリジリウム系、ジフェニルエーテル系の2種類の活性酸素発生剤を用いて、イネ抗酸化酵素活性への影響を比較し、それぞれの薬剤による影響の特徴を明らかにする。さらに、薬剤処理によって特徴的変化を示す酵素の各アイソザイムについてmRNAレベルでの発現変化を調べ、酵素活性変化との関係を解析する。

【材料】
供試植物:イネ(Oryza sativa L. cv. Nipponbare)
供試薬剤:パラコート(ビピリジリウム系)
オキシフルオルフェン(ジフェニルエーテル系)
      処理濃度 [0、0.1、1μM(エタノール1%、Tween20 0.1%を含む)]

【方法】
◇薬剤処理◇水耕法により3葉期まで育てたイネの地上部に各濃度の薬剤溶液を2時間浸漬処理した。これを蒸留水で洗浄し水耕液に移してグロースチャンバー内で5日間生育させ、以下の測定に用いた。
◇新鮮重、クロロフィル含量測定◇薬剤処理後5日目のイネ地上部の新鮮重、クロロフィル含量を測定した。クロロフィル含量は、地上部をDMSOに48時間浸漬させ、測定した。
◇抗酸化酵素活性測定◇薬剤処理後0,1,3,5日目にイネ地上部を1g採取した。これを乳鉢内で液体窒素を加えて摩砕し、リン酸カリウム緩衝液を加え、さらにホモジナイズしたものを15,000gで20分間遠心した。得られた上清をミラクロスでろ過して粗酵素液とした。この粗酵素液を用いてカタラーゼ、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)、グルタチオンレダクターゼ(GR)の活性を測定した。粗酵素液の一部はセルロースチューブに入れ、リン酸カリウム緩衝液中で約20時間透析し、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性測定に用いた。

【結果・考察】
 新鮮重、クロロフィル含量については、パラコート、オキシフルオルフェンともに、1μM処理区で減少が見られ、0.1μM処理区では無処理区と差がなかった。
 抗酸化酵素活性については、パラコート、オキシフルオルフェンともに1μM処理区において、処理後3、5日目でAPX、GRの活性が無処理区に比べて高くなっていた。0.1μM 処理区では両薬剤ともに無処理区とほとんど差がなかった。
 パラコート、オキシフルオルフェンは植物体内でそれぞれスーパーオキシド、1O2という異なる種類の活性酸素を発生させる除草剤であることが知られている。しかし、以上の結果から、両薬剤とも処理からある程度の時間が経過すると、アスコルビン酸−グルタチオンサイクルの酵素であるAPX、GR活性の上昇という類似した応答を引き起こすということが推定された。

【今後の予定】
 両薬剤処理で活性に上昇の見られたAPXについて、アイソザイムごとの活性測定を行うことを検討している。