つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

単離味細胞における電気的特性の解析

大森 昌浩 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 中谷 敬 (筑波大学 生物科学系)


<導入>
 高等生物はその生命維持のため様々な栄養素を外界からとらなくてはならない。その手段の一つとして摂食行動があげられるが、その際味覚が重要な役割を果たす。味覚は、苦味、甘味、辛味、酸味、そしてうまみの5種類に大別される。甘味やうまみは、積極的に摂食行動を起こさせるようにする味覚であり、苦味や酸味は有害な物質を避けるために生じる味覚である。味覚の研究はここ数年で大きな飛躍を遂げてきている。味細胞の単離法の確立、電気生理学的手法、遺伝子解析など、様々な方法で味覚の生じるメカニズムが研究されている。その結果、tastant(味物質)を感知する受容体やそれに共役するG-protein、セカンドメッセンジャの存在、その他シグナルトランスダクションに関与するタンパク質などが同定された。しかし、その一方でそれぞれの因子同士がどのように係わっているのか、諸説が混同しているのもまた事実である。以上の様に、味覚のシグナルトランスダクション・メカニズムに諸説がある理由のひとつとして、味細胞のtypeわけの徹底が決定的でなかったことが挙げられる。本研究においては味細胞の単離法を確立したことをふまえて、それぞれのtypeにおける味細胞の電気的応答を解析することを第一の目的とした。本実験ではホールセルパッチクランプ法をて、ウシガエル味細胞の電気的特性を解析した。

<材料と方法>
 材料には動物業者から購入したウシガエル(Rana catesbeiana)を用いた。カエルは室温(約25℃)で飼育した。カエルの脊髄を背中側からハサミを使って切断した後、舌をできるだけ根元から切り取り、calcium-free solution(NaCl 115, KCl 2.5, Na-Hepes 2, Glucose 2)で洗浄した。次にsylgardをしいたシャーレー上におき、ピンを使い十分に広げた状態で固定した。味細胞の単離は以下の順序で行った。

1)実体顕微鏡下でハサミを使って200個以上の味蕾を取り出した。十分量の味蕾を、2m MEDTAを含むcalcium-free solutionで3回洗浄した後2mMEDTAを含むcalcium-free solutionの中で約10分間インキュベートした。
2)次に酵素溶液(L-Cysteine:2mgにPapain:22μlを2mMEDTAを含むcalcium-free solution:2mlに溶かしたもの)を加え10分間インキュベートした。
3)次にNormal Ringer solution(NaCl 115, KCl 2.5, CaCl2 1.8, Na-Hepes 2, Glucose 2)で2回洗浄した後、適量のNormal Ringer solutionを加えて10回程度トリチュレーションを行った。

 単離した味細胞を含む溶液を顕微鏡ステージ上に置いたチャンバー内に移し、次の手順でパッチクランプ法の実験を行った。まずガラス管パッチ電極を細胞に接触させ、電極内に陰圧を加えることによってギガ・シールを形成した後、さらに陰圧を加えて幕を破ることによってホールセル状態にした。次に電位固定法によって様々な固定電圧をかけた時の電流を記録し、解析を行うことによって細胞の電気的特性を調べた。


<結果と考察>
 味細胞の単離においては、酵素処理の過程を長くすることによって比較的多くの独立した味細胞を単離できた。しかしこの細胞を用いてパッチ膜を形成するのは時間が短いそれと比べて確率が下がった。これは酵素処理を長くすることによって単離の割合は上がるが、細胞表面に化学的な損傷を加えてしまったことによるものと思われる。

 味細胞はその形態から次の3つのタイプに分類することができた。Type1bはapicalの部分にシート状の構造を持ち、Type2はapicalの部分に太いrodをもち、Type3は細いrodを二本以上持つという特徴がある。

 ホールセル状態の、すべてのタイプの味細胞に一定の固定電圧(たとえば0mV)を加えると、直後に一過性の内向き電流が生じ、およそ15ミリ秒後に外向き電流が生じた。内向き電流と外向き電流のピーク値でI-V relationをみると、内向き電流は-45mV付近から立ち上がり、-10mVでピークに達した。反転電位は+45mVだった。外向き電流は、0mV付近から電流が立ち上がり始め、電圧が大きくなるにつれて電流量が大きくなった。反転電位は+15mVだった。電流の大きさは内向き電流、外向き電流ともにType2が大きく、次にType1b、Type3だった。Type2では外向き電流に顕著なinactivationが観察された。細胞外のナトリウムイオンを除くと、どのTypeの細胞においても内向き電流が完全に消失した。これにより、内向き電流のcarrierがナトリウムイオンであると結論できる。また細胞内のカリウムイオンを除くと、どのTypeの細胞においても外向き電流が消失した。これにより、外向き電流のcarrierがカリウムイオンと結論できる。