つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

ウェルシュ菌におけるarcABDCオペロンの発現制御

鹿角 尚子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 清水 徹 (筑波大学 基礎医学系)



<目的>

 ウェルシュ菌(Clostridium perfrigens)はグラム陽性偏性嫌気性桿菌で芽胞を形成する細菌であり、多様な毒素・酵素を産生し、それらが協調的に作用することによって特徴的な病態(ガス壊疽)を引き起こす。 ウェルシュ菌のうち遺伝的解析が可能であるstrain13は近年全ゲノムシークエンスが決定され、3.04Mbの染色体と54kbのプラスミドが存在し、2,660と63のORFがそれぞれに同定されている。 現在行われているDNAマイクロアレイ解析により、ウェルシュ菌の病原遺伝子や生存に関わる重要な遺伝子の多くは、細菌の二成分制御系として知られるVirR/VirSシステムにより制御されている事が判明しつつある。
 本研究では、VirR/VirSにより正に制御されていると考えられるアルギニン代謝に関わるarcABDC遺伝子群がVirR/VirSシステムによってどのように転写調節を受けているかを解析する目的でノザンハイブリダイゼーションを行った。

<方法>

 arcABDC 領域に存在する5つの遺伝子arcA、arcB、arcD、arcC、argRをPCRにより増幅し、それらのDNAにラベリングを行いそれぞれの遺伝子に対応するDNAプローブを作成した。 さらにVirR/VirSシステムによる発現制御を解析するため、野生株strain13、virR変異株であるTS133、TS133にvirR/virSを相補したTS133(pBT405)から全RNAを調製した。 RNA調製はRNA転写量の時間的変化を調べるため、対数増殖期初期から後期に相当する培養2, 3, 4時間の3点で行った。 調製した全RNAとDNAプローブを用いてノザンハイブリダイゼーションを行い、各遺伝子に対するVirR/VirSシステムによる発現制御の有無およびRNA転写量の時間的変化、さらに転写産物のサイズの確認を行った。

<結果>

 ノザンハイブリダイゼーションの結果、arcABDC, およびargR遺伝子のどの遺伝子プローブを用いてもほぼ同じサイズ(7.3kb)の転写産物がみられたことから、arcABDC argRは一つのオペロンと考えられた。 これまでのDNAマイクロアレイ解析の結果では、arcABDC領域の遺伝子はすべてVirR/VirSにより正に制御されているという結果が出ている。 しかし今回のノザン解析の結果では、virR変異株のTS133においては転写量の減少がみられたものの、TS133にvirR/virSを相補した株での転写量はむしろstrain 13よりも少なくなり、virR/virS遺伝子を相補した効果はみられなかった。 また、すべての遺伝子において対数増殖期の初期から後期にかけて転写量が増加しており、特に培養2時間から3時間にかけての増加が顕著であり、arcABDCオペロンはウェルシュ菌において対数増殖期に最も多く発現されることが判明した。