川上 怜美 (筑波大学 生物学類 4年) 指導教官: 清水 徹 (筑波大学 基礎医学系)
【背景・目的】
ウェルシュ菌はクロストリジウム属に属し、グラム陽性偏性
嫌気性桿菌で芽胞(胞子)を形成する。本菌は土壌や動物
の腸管などに広く分布し、ヒトに「ガス壊疽」という筋肉や結
合組織の壊死を引き起こしたり、学校給食の場などで比較
的軽い集団食中毒を引き起こす病原菌であることが知られてい
る。これまでに、我々の研究室ではウェルシュ菌のうち、
遺伝学的解析が可能な株であるstrain 13の全ゲノム解析が行
われ、その全ゲノムシークエンスが決定されている。今回の
研究では、ゲノム解析において新たに同定された遺伝子のうち
糖代謝に関与するaga (alpha-galactosidase)遺伝
子領域に注目し、これまでのマイクロアレイ解析で得られてい
る、aga遺伝子群は二成分制御系のVirR/VirSシステ
ムによって正の制御を受ける、という結果を、野生株、virR
変異株およびその相補株におけるノザンハイブリダイ
ゼーション解析から検証することを目的とした。
【材料と方法】
実験にはウェルシュ菌野生株strain
13,virR変異株TS133
,virR/virS相補株TS133(pBT405)を用いた
。
これら3株を培養し、培養開始後2h、3h、4hの時間における全RNA
を抽出した。また、strain 13から調製した染色体DNA
を用いてaga領域の各遺伝子をPCRで増幅させ、それぞれを蛍光
標識し各遺伝子に対するDNAプローブを作製した。これらを
用いてノザンハイブリダイゼーションを行い、mRNAのサイズや
転写量の時間的変化などを解析した。
【結果・考察】
野生株の全RNAに対するノザンハイブリダイゼーションの結果
、aga領域に存在する5つの遺伝子のプローブを用いた
場合、
7.4,1.3,4.8,3.5kbのさまざまなサイズのmRNAが検出され、こ
れら5つの遺伝子は一部オペロンを構成しているものの、
個別に転写されているものも存在することが明らかになった。
また、RNA転写量の時間的変化を調べたところ、aga領
域のmRNAは培養開始後3時間で最も多くみられたことより、
対数増殖期において転写が最大になることが判明した。それぞ
れの時間におけるRNAの転写量は、野生株と比較して
virR変異株TS133で減少し、その転写量はvirR/virS
を相補することにより回復した。このことから、
aga遺伝子領域はVirR/VirSシステムによって正の制御
を受けていると考えられた。