つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

コイ科カマツカ類の分子系統解析

郡司 吉秀 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 宮崎 淳一 (筑波大学 生物科学系)


【導入・目的】
  コイ科は硬骨魚綱骨鰾上目コイ目に属し、340属2000種が記載されており、南米・オーストラリアを除く全世界に広く分布している淡水魚類で最も大きなグループの1つである。また、食用・観賞用など馴染みの深い魚類である。
  コイ科魚類については、Cuvier(1817)によってコイ科(Cyprinidae)が提唱されて以来、 多くの研究者によってその分類学的研究が行われてきた。Cuvierの Cyprinidaeはたった6属から構成される非常に大雑把なものであったが、McClelland(1838)によってコイ科魚類は3亜科にまとめられた。 その後、発生学や形態学、生物地理学、核学など様々な分野でコイ科の系統関係が研究 され、Kryzhanovsky(1947)は4亜科に、Nikolsky(1954)は9亜科に、Wu(1964)は中国産の コイ科魚類を10亜科に、Nelson(1994)は8亜科に分類した。 また、最近ではZardoya&Doadria(1999)が、ミトコンドリアの cytochrome b 遺伝子の塩基配列を比較することによって、コイ科魚類をコイ亜科とウグイ亜科の2亜科に分類した。 このようにコイ科魚類の分類は、研究者によって意見が大きく異なり、依然として論議の的となっている。本研究では、カマツカ亜科魚類に焦点を当て、その系統関係を解明することを目的とした。
  近年、細谷(1989)は形態学的な観点から従来のカマツカ亜科を、新たにカマツカ亜科(Gobioninae)、ヒガイ亜科(Sarcocheilichthyinae)、モロコ亜科(Barbinae)の3亜科に分けた。しかし、この分類は明確な共有派生形質に基づいてなされたものではないため、この3亜科の妥当性やこれらの間の系統関係を評価するのは困難な状況にある。 そこで私は、これらの3亜科に属するコイ科魚類の系統関係を明らかにし、それぞれの亜科が単系統であり、独立した亜科として認められるかどうか、分子生物学的手法を用いて解析した。


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Fig.1 最大節約法による系統樹
*のついた種はデータベースより引用したものである。 斜体数字はブートストラップ確率(50%以上)を表す。 アウトグループとしてギンブナを使用した。
【材料】
  コイ目コイ科に属する日本産・韓国産カマツカ亜科、ヒガイ亜科魚類

【方法】
  魚の胸鰭から1〜2mm角の組織片を切り出し、そこからDNAを抽出した。 このDNAを鋳型としてPCR法によってミトコンドリアのcytochrome b遺伝子を 増幅し、ダイレクトシークエンシングによってその全塩基配列(1140bp)を決定した。 この塩基配列に基づいて、近隣結合法と最大節約法によって系統樹を作製した。

【結果・考察】
  最大節約法によって構築した系統樹をFig.1に示す。 この系統樹において、「カマツカ亜科@」は単系統性を示さなかった。一方、データベースより引用したヨーロッパ産の カマツカ亜科である「カマツカ亜科A」は単系統となった。さらに「ヒガイ亜科」も単系統であった。 この結果から、まずヒガイ亜科はカマツカ亜科から独立した1つの亜科であると考えられる。また、日本産のカマツカ亜科@とヨーロッパ産のカマツカ亜科Aが同じクラスターに含まれないため、現在のカマツカ亜科は異なる類群に属する種の寄せ集めである可能性がある。 今後、カマツカ亜科@の単系統性とカマツカ亜科Aとの類縁関係、ヒガイ亜科の単系統性、モロコ亜科の単系統性とこれら3亜科間の類縁関係をサンプル数を増やしてより詳細に解析していく必要がある。