つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

紅茶色素テアルビジンの構造解析

嶋田 恩美 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 田中 俊之 (筑波大学 応用生物化学系)


<背景>
 紅茶は世界で生産される茶の80%を占め、水に次いで最も多く飲まれている飲料である。紅茶の色と味には、大量に含まれるポリフェノール系色素が大きく貢献している。紅茶の主要色素は、テアフラビン(TF)とテアルビジン(TR)であるといわれ、紅茶の水色はこの二つの色素の調和が重要とされている。
 現在、世界的にポリフェノールの様々な機能性に関する研究報告が多数なされているが、紅茶では、TF類についての研究が進んでいる。TFは、紅茶浸出成分の2〜6%で、化学的に確立された赤橙色をなす物質で、自然界に稀なベンゾトロポロン構造をもっている。一方、TRは、紅茶中に、10〜15%含まれる暗褐色色素で、その部分構造は一部明らかになっているものの、その生成機構とともに50年近い研究にもかかわらず、一致した見解は得られていない。また、TRが色素であるという証明となる発色団の構造が明らかになっていない。TRの生成経路は、カテキン類が酸化重合することでTFができ、さらに酸化重合してTRができるという説と、それとは別経路で、カテキン類からTRが生成するという二つの説が現在有力とされている。
 紅茶ポリフェノールの生物活性の中には、緑茶の主成分であるエピガロカテキンガレートより優れているものもあり、紅茶ポリフェノールの機能性の解明は、今後に期待するところが大きい。そのためにも、いわゆる紅茶ポリフェノールやTRと呼ばれるものが、どのような化学構造をもち、どのように生成してくるのかを明らかにすることは重要な課題である。これらのことから、本研究では、精製した紅茶色素や、それらの構成単位と考えられる標準物質を用い、主に熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析計法による熱分解物の解析から、TRの発色団の構造解明を目的に実験を行った。

<材料と方法>
 アッサム紅茶50gを1Lの水で抽出し、液液分画をして、酢酸エチル画分、ブタノール画分、酸性ブタノール画分を得た。このうち、酢酸エチル1−4画分とブタノール画分をトヨパールHW―40FカラムWakosil25C18カラムを用いて精製し、いくつかの画分に分けて紅茶色素サンプルを得、それぞれ減圧濃縮した後、凍結乾燥した。
 これらの精製した紅茶色素サンプルを、カテキン類、及び本研究室で合成されたベンゾトロポロン構造をもつ物質を標準物質とし、メチル化剤テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を添加したものとしないものの両方について、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析計にて分析した。それぞれのサンプルは、100〜120μgをパイロホイルに包み、一定熱分解し、連続的にガスクロマトグラフィー質量分析を行い、熱分解物の同定を行った。

<結果と考察>
 カテキン類と紅茶色素サンプルの分析結果を比較したところ、TR中のカテキン部分構造が明らかとなった。今後、TRサンプルのさらなる精製を行い、改めて熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析計法による分析を行うとともに、TR中の発色団構造の解明を進めていく予定である。また、これまでに得られた未知熱分解物の同定と、さらに他の標準物質での分析を行い、データの蓄積を行う予定である。