つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

L-DOPA類縁化合物の植物成長抑制活性と生理作用

白戸 洋章 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 松本 宏 (筑波大学 応用生物化学系)


〈背景・目的〉
L-DOPAはフェニルプロパノイドの一種であり、ドーパミン・アドレナリン・ノルアドレナリン・メラニン・フラボノイド・リグニンなど、重要な二次代謝物の前駆体である。熱帯性マメ科植物のムクナ (Mucuna pruriens (L.) DC. var. utilis)は根部からL-DOPAを滲出し、周囲の他植物の生育を抑制することが知られている。
本研究では、L-DOPAと化学構造の類似した化合物の植物成長抑制活性と生理作用を調べることにより、成長抑制に重要なL-DOPAの化学構造と作用機構を推察することを目的としている。

〈実験材料・方法〉
供試植物はレタス(Lactuca sativa (L.))を用いた。ペーパータオルを敷いたシャーレに播種し、蒸留水を加えた後、ラップ、アルミホイルで包み、グロースチャンバーに静置して発芽させた。33時間後に生育が同程度の幼植物を、10-4M試験薬剤を含む0.5%寒天培地に移植し、グロースチャンバーで5日間生育させた。この幼植物の下胚軸・根部それぞれの長さ・新鮮重・乾燥重を測定し、無処理区と比較した。
なお、試験した薬剤は次のとおりである。
Benzoic acid / Caffeic acid / t-Cinnamic acid / 3-Coumaric acid / 4-Coumaric acid / 3,4-Dihydroxyphenylpropionic acid / DOPA / Dopamine / t-Ferulic acid / Gallic acid / Homoprotocatechuic acid / 3-Hydroxybenzoic acid / 4-Hydroxybenzoic acid / 3-Hydroxyphenylacetic acid / 4-Hydroxyphenylacetic acid / 4-Hydroxyphenylglycine / 4-Hydroxyphenylpropionic acid / Phenylalanine / Phenylglycine / Phenylpropionic acid / Protocatechuic acid / Sinapinic acid / TOPA / Tyrosine / m-Tyrosine / Vanillic acid

〈結果〉
Phenylglycineを除く全ての試験薬剤で下胚軸長よりも根部長に抑制作用が現れるという傾向が見られた。ほとんどの薬剤で、地上部よりも根部の新鮮重・乾燥重に強い抑制作用が見られたが、根部の伸長に対する抑制作用が最も顕著であった。試験薬剤のうち、根部長に強い抑制作用が表れた薬剤をあげると、DOPA、m-Tyrosine、Vanillic acid、Phenylpropionic acid、t-Cinnamic acid、Benzoic acid、Homoprotocatechuic acidであった。ただし、Phenylpropionic acidの新鮮重・乾燥重への影響は根部よりも地上部の方が大きかった。

〈考察〉
Dopamineがほとんど生育抑制を示さなかったことからL-DOPAの抑制作用には炭素鎖末端のカルボキシル基が重要であると考えられた。また、Caffeic acid、3,4-Dihydroxyphenylpropionic acidが活性を示さないという結果からα位のアミノ基、Phenylalanine、m-Tyrosine、Tyrosineの結果からm位のヒドロキシル基もL-DOPAの抑制作用に重要だと考えられた。
Phenylglycine、Phenylpropionic acidは上記のように独特の効果を示すため、L-DOPA及び他試験薬剤とは作用機構が異なるのであろう。

〈今後の展開〉 
現在、試験薬剤の中でレタス生育の抑制活性の強い薬剤(Benzoic acid、DOPA、Phenylpropionic acid、m-Tyrosine、Vanillic acid)の濃度を変えて上記と同様に生育させたレタス幼根長を測定し、薬剤濃度と生育との関係を解析している。
今後、L-DOPA処理で見られる根部のメラニン蓄積をこれらの薬剤を処理したときに調べ、同様の作用が働いているか否かを確認する予定である。