つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

土壌中における生分解性プラスチック表面の微生物相解析

中嶋 大輔 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 中島 敏明 (筑波大学 応用生物化学系)


はじめに
 プラスチックは非常に安定かつ廉価な物質であり、また加工性にも優れているため、現在様々な産業において幅広く使用されている。しかしながらその安定性ゆえに、一度環境中に排出された場合、微生物による分解を受けずに長期にわたって環境中に残存することが知られている。そこでこれらの問題を解決するために、現在研究開発されてきているのが微生物により分解可能なプラスチック、すなわち生分解性プラスチックである。しかしながら、廃棄された生分解性プラスチックが環境中の微生物生態系に与える影響については不明な点が多く、その影響評価を行うことは地球環境および生物多様性を保全するためにも重要である。そこで本研究では、生分解性プラスチックを埋設した土壌中において細菌相がどのような挙動を示すのかを解析することとした。
 本研究室では、これまでの研究において、土壌中に種々の生分解性プラスチックを埋設する実験系を構築した。そして、経時的に土壌中およびプラスチック表面のDNAを抽出し、これをPCR-DGGE法に供した。そのバンドパターンを主成分分析にかけた結果、土壌中における微生物群集構造はすべての系において大きな変化は見られなかった。一方、プラスチック表面では分解が進むごとに群集構造の変化が確認された。このことから本研究では、抽出されたDNAのうち、プラスチック表面のものに的を絞って細菌相の解析を行うこととした。

方法
1. DNAの抽出と菌の同定
 畑土壌にdisk状に加工したプラスチックをそれぞれ埋設し、経時的にdisk表面からDNAを採取した。抽出したDNAのうち生分解性プラスチックBionolle#3020由来のものをPCRに供した。プライマーとしては16SrDNAのほぼ全長を取得できるものを用いた。増幅・精製後ベクターにつなぎ、エレクトロポレーションによりE.Coli DH10B株に導入し、シーケンスを行った。得られた塩基配列をDDBJのデータベースを用いて相同性検索をかけることにより、各サンプルに含まれる細菌を同定した。
2. 進化系統樹の作成
サンプルごとに同定した菌をDNASIS Proを用いて系統分類し、進化系統樹を作成した。この進化系統樹から、プラスチックの分解に関わっていると考えられる細菌を推定した。

結果と考察
 進化系統樹の結果から、プラスチック表面の細菌は初期の段階ではHerbaspirillum属を中心としたβ-proteobacteriaが優先種となったが、中盤ではBacterium Ellinを中心としたAcidobacteriaが台頭してきた。そして終盤ではこれまで存在していなかったδ-proteobacteriaが出現してくるようになった。今後の課題としては、解析数を増やすことによる細菌種情報の精度の上昇、および既知の分解菌との相関について検討したい。また生分解性プラスチックの分解には細菌だけでなくカビも関わっている可能性がある為、カビも含めた微生物相の解析を行う必要がある。