つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

寄主の活性にもとづいた寄生蜂の性比

中村 智 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 徳永 幸彦 (筑波大学 生物科学系)


はじめに

 寄生蜂は半数倍数性であり、受精卵として産卵されれば雌となり、未受精卵のまま産卵されれば雄となる。 また、寄生蜂の雌は交尾後、精子を貯精嚢に蓄えておくことができ、産卵に応じて精子を卵に受精させるかどうか調節している。 したがって、寄生蜂の雌は子の性を産み分けられる、つまり性比(雄の割合)を調節できると考えられている。
 寄生蜂の性比は主に寄生蜂の親の特性、環境の特性、寄主の特性、局所配偶競争に影響をおよぼす要因によって変動する。 本研究では特に寄主の特性に注目した。 寄主の特性として最も一般的なものとして寄主の体の大きさが挙げられる。 体の大きな寄主には雌を、小さな寄主には雄を産卵する傾向にあることが知られている。
 本研究室で飼育しているゾウムシコガネコバチ、Anisopteromalus calandrae、はマメゾウムシに寄生する寄生蜂である。 この寄生蜂は豆の内部にいるマメゾウムシの幼虫、または蛹に外部寄生する。 このような場合、寄生蜂は寄主の体の大きさを直接知ることが難しいと考えられる。 そこで、本研究では寄生蜂が直接感知できると考えられる寄主の活性に注目した。 寄主の活性とはマメゾウムシの幼虫が豆の中で豆を摂食する時に発生する音の頻度のことである。 この寄主の活性はマメゾウムシの齢にしたがって大きくなることが知られている。 本研究ではマメゾウムシの日齢に伴う体の大きさの変化と活性の変化を比較することによって、寄主の活性が寄生蜂の性比調節に直接影響を与えている寄主の特性としての可能性を検討する。

方法

 いくつかの地域系統のヨツモンマメゾウムシ、Callosobruchus maculatus、を寄主として用い、全ての系統について以下のような実験を行なった。
 マメゾウムシに1時間産卵させ、1つの豆に1卵産卵されたものを用意した。 このマメゾウムシが1個体内部にいる豆を各日齢(5日齢から羽化するまで)ごとに解剖して、内部にいる幼虫、または蛹の齢を記録し、体重を測定した。 また、各日齢ごとに豆の内部にいるマメゾウムシの摂食音を盗聴器で録音した。 録音後、豆を解剖し、マメゾウムシの齢を記録した。この録音データから摂食音の回数を数え、この回数を日齢ごとの寄主の活性とした。

結果と考察

 日齢に伴うマメゾウムシの活性の変化は体の大きさの変化とは異なり、単純な増加のみの変化ではなく、わずかな振動をもった増加を示した。 これは幼虫の齢が変化する際の脱皮中に摂食が見られないことによると考えられた。 一方、マメゾウムシの体の大きさと活性はともに急激に増加する期間を示し、その期間はおおよそ一致していた。 以前の研究から、マメゾウムシの体の大きさが急激に増加する期間に寄生蜂の性比も雄への偏りから雌への偏りへと大きく変動することがわかっている。 このことから、寄主の活性は寄生蜂の性比調節に直接影響を与えている寄主の特性としての可能性が考えられる。
 今後は実際にゾウムシコガネコバチを用いて各日齢のヨツモンマメゾウムシに寄生させ、性比の変化を調べることにより、寄主の活性の性比への影響を確認する。