西山 哲史 (筑波大学 生物学類 4年) 指導教官: 林 純一 (筑波大学 生物科学系)
<背景・目的>
ミトコンドリアは細胞内において呼吸機能を司り、その内部に独自のゲノムであるミトコンドリアDNA(mtDNA)を持っている。
mtDNAは呼吸鎖酵素複合体のサブユニットの一部やrRNA、tRNAをコードし、ある種のmtDNA突然変異が蓄積すると細胞の
呼吸機能欠損を引き起こすことが知られている。しかし、mtDNAは細胞内においてミトコンドリアの外・内膜に覆われており、
さらにミトコンドリアの構造がきわめて微小であるため、核DNAにおいて現在も盛んに行われているようなDNA組換えの技術は
今までのところ存在しない。
また近年になって、mtDNAはミトコンドリア内でmtTFA(mitochondrial Transcription Factor A)やSSBP
(Single-Stranded DNA-Binding Protein)などのタンパク質に保護されている可能性が示唆され、仮にミトコンドリア内に
外来性のDNAを導入しても長期間分解されずに残存、さらには複製されるのか否かは分かっていなかった。
そのため、本研究ではミトコンドリア内に導入した外来性DNAが残存・複製されるか否かをin vitro、in vivoの双方で調べ、
その上で外来性mtDNA導入マウスの作成を目指した。
<方法>
大規模欠失型mtDNA(ΔmtDNA)をエレクトロポレーション(電気穿孔法)によってミトコンドリア内に導入してin vitroで培養し、
ΔmtDNAの有無をPCR法で調べた。
また、ΔmtDNAを導入したミトコンドリア画分をマイクロインジェクション法によってマウス受精卵に導入し、導入直後と胞胚期に
おけるΔmtDNAのコピー数を定量PCR法で測定した。さらに、受精卵を仮親マウスの卵管に移植して得られた仔マウスで
ΔmtDNAの有無をPCR法によって調べた。
<結果>
ミトコンドリア画分をin vitroで培養した結果、導入したΔmtDNAが一週間以上にわたってミトコンドリア内膜もしくは
マトリクス内に存在することが確認された。また、ΔmtDNA導入ミトコンドリア画分を導入した受精卵において、導入直後から
胞胚期の間にΔmtDNAのコピー数が増加していた。しかし、今回の方法で得られた3個体のマウスからはΔmtDNAは検出
されなかった。
<考察>
今回の結果から、ミトコンドリア内においてΔmtDNAが選択的に分解されることなく、安定的に存在し続けることが示された。
また、ΔmtDNA導入ミトコンドリア画分を導入した受精卵ではΔmtDNAが複製される可能性が示唆された。
今回得られたマウスからはΔmtDNAが検出されなかったが、出生個体数が少ないため、今後は継続してΔmtDNA導入
ミトコンドリア画分のマイクロインジェクションを行うと共に、ミトコンドリア画分内における導入ΔmtDNAの割合を高める方法を
検討する予定である。