つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

日本企業における環境倫理

丹羽 史佳 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: ダリル・メイサー (筑波大学 生物科学系)


1.始めに:近年、環境問題に対する市民の危機感の高まりに伴って、国内でもいくつかの政策がたてられている。中でも廃棄物処理法やエネルギー使用合理化法など、産業活動を規制するものが多い。それは企業活動が、環境に対して甚大な影響力を持つからに他ならない。しかし、企業の環境活動内容を調べた研究は多くあるものの、考え方、倫理観を調べたものはほとんどない。日本の企業はどのような考え方で環境活動に取り組んでいるのか、また経済的な目的を持つ組織が、どの程度まで倫理的であることが可能なのか、これらは環境政策の立案の際に基礎とされるべきである。

目的:本研究の目的は、上記の疑問を基に、日本企業の環境保護に対する立場、倫理観、経営 との兼ね合いに関する考え方を調査し、その方法論と、異なる組織における環境方針をどのような指標でもって測るかについて考察することである。

2.調査方法:環境報告書を出している日本企業のうちランダムに選ばれた300社の冊子版またはインターネット版報告書から、各企業の環境保護に対する立場、倫理観、経営との兼ね合いに関する記述を調べた。主な項目は、1. 何のために環境保護をするのか、2. 環境活動に対するスタンス、3. 経営面から考えた環境活動とは、である。

3.結果:持続可能な社会という思潮が普遍化してきていること、近年問われつつある企業の社会的責任の一環として環境活動を捉えている企業が多かったことがまず挙げられる。他に、環境に対するイメージ、方針の根拠、経営との兼ね合いにおける問題点などについて詳しい結果が得られた。主な結果は以下のように分類される。

@ 人間中心主義(環境調和的) 65% 
 子孫も含めた人類の利益を重視。人類の豊かさのために環境保護を最優先と捉え、環境問題はある程度は技術で解決できるが万能ではない、と考えている。しかし自然に対しては道具的な価値のみを見出している。経営面ではプラス成長を保ちながらグリーンGDPを増加させることを目指している。
A 生態中心主義  30%
 経済成長は重要だが、未来世代へも配慮すべきであり、技術による解決には限度があると考えている。生態系の一次的な価値を認めている。経営面ではゼロ成長の定常経済もしくは資源をあまり使わない緩やかな成長を目指している。
B 生命中心主義  3%
 生態系を人類より上位に位置付けており、人間以外の種の権利、生態系の本源的価値を認めている。経営面では、自然開発の制限を目指している。

4.考察:人間中心的な考え方が3分の2を占めたが、その全てが環境調和的な側面を持っている ことが読み取れた。また自然の一次的な価値を認め、持続可能な社会の実現のためには経済の緩やかな成長も是としていると読み取れる企業も少なくなかった。持続可能な社会という思潮も確かに普遍化していた。これらの点から、経済的目的で組織された企業が、環境において倫理的であることが可能だと主張していると結論づけられる。
  しかしながら今日の地球環境問題は、この倫理状況のまま解決に向かうほど易しいものではない。全ての企業が今以上に倫理性に重点を置き、その倫理観、見地を明示し、倫理的なビジネスに対する共通理解をつくっていくべきである。また、政府は「活動」を規制するための法律を作るだけでなく、利益にとらわれない、生態系を中心に据えた考え方を論理的に示し、日本が全体としてどのようなビジョンで進んでいくのか、明確な共通目標をつくるべきである。

  今後、実際の活動と報告された方針に矛盾がないか確認していくため、さらなる研究が必要とされる。