つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

酸化ストレスによる破骨細胞の分化制御に関する研究

原田 絢子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 坂本 和一 (筑波大学 生物科学系)


〔導入・目的〕
 骨は、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収により絶えず新しく作り変えられている。通常は、骨量は骨形成と骨吸収のバランスが保たれて一定に維持されているが、このバランスが崩れると骨形成量の多い場合は大理石病に、骨吸収量の多い場合は骨粗鬆症になる。この骨代謝に関わる破骨細胞は、造血幹細胞から分化した前駆細胞の融合により形成される多核体の細胞で、骨表面に接着して酸やタンパク質分解酵素を分泌して骨を溶かすという重要な働きをしている。
 一方、生体では放射線、紫外線、金属、有害物質などの外的要因や、低酸素状態(虚血)、炎症などの内的要因によるストレスによって活性酸素・活性窒素・フリーラジカルが生成することが知られている。最近、破骨細胞の分化や生体における骨吸収の促進に一酸化窒素などの活性酸素が深く関わることが明らかになってきた。
 そこで本研究では、破骨細胞の分化における活性酸素の働きを明らかにすることを目的に、マウスのマクロファージ様細胞RAW264が破骨細胞に分化する際に、過酸化水素がどの様な生理作用を示すのか調べた。

〔方法〕
 マウスのマクロファージ由来のRAW264細胞は、RANKL(Receptor Activator of NF-κB Ligand)により破骨細胞に分化することが知られている。まず実験で用いるRANKLを精製するために、RANKL発現プラスミドPGX-2TK-RANKLを大腸菌JM109に導入し、IPTG(Isopropyl-β-D-ThioGalactopyranoside)で発現を誘導させ、Glutathion Sepharose 4Bを用いてGST-RANKLを精製した。さらに、RAW264の培養系に精製したGST-RANKLを0、50、100、200、500ng/mlになるように添加し、破骨細胞への分化能を調べた。
 次に、RAW264が破骨細胞に分化する際に過酸化水素がどの様に影響するか調べるために、H2O2の濃度(0、1n、10n、100n、1μ、10μ、20μ、30μ、40μ、50μM)や、H2O2の添加時期(培養開始0、5、24、72時間後)を変えて培養系にH2O2を添加した。RAW264細胞は100ng/ml RANKL 存在下のα-MEM(10%FBS、1%NEAA)に懸濁し、48well plate 上で2.5×103または5.0×103cells/wellの細胞密度で播いて培養を行なった。培養3日後に培地を換え、培養5日後に4%パラフォルムアルデヒドで固定した後、TRAP染色(酒石酸耐性酸性フォスファターゼ染色)を行い、3核以上のTRAP陽性の破骨細胞の数を数えてH2O2による破骨細胞の分化への影響を調べた。
 次に、RAW264細胞を100ng/ml RANKL存在下のα-MEM中で 6cm plateに1.0×105cells/wellになるように播き、5時間後にH2O2(0、1n、10n、100n、1μ、10μM)を添加し、培養3日後と5日後に細胞を回収してRNA抽出を行った。このRNAを用いてRT-PCRを行うことにより、破骨細胞で発現することが知られているTRAPやカルシトニンレセプターのmRNAの発現を調べた。

〔結果・考察〕
 RANKLの精製を行なったところ、1Lの大腸菌培養液あたり約0.7gのGST-RANKLが精製でき、RAW264 の培養系にこのRANKLを添加したところ濃度依存的に破骨細胞の数の増加が観察された。そこで、100ng/mlのRANKL存在下で異なる濃度のH2O2を添加したところ、100n〜10μMのH2O2濃度でTRAP陽性の破骨細胞が増加し、30μM以上のH2O2濃度では死滅する細胞が増加することがわかった。また、H2O2の添加時期(培養開始0、5、24、72時間後)を変えて培養した場合には、培地換え等の影響を受けたためか、あまり安定した結果は得られなかった。
 さらにRT-PCRの実験ではTRAPとカルシトニンレセプターのmRNAの発現は培養3日後より5日後のほうが発現が増加していることが確認された。H2O2濃度によるmRNAの発現の変化は現在調べているところである。
 今後、H2O2濃度による破骨細胞の分化への影響や破骨細胞への分化に関わる様々なmRNAの発現を詳しく調べていく予定である。