つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

タバコ培養系アクティベーションタギングによる新規細胞接着変異体の作出と解析

日夏 華陽 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 佐藤 忍 (筑波大学 生物科学系)


【背景・目的】
 多細胞植物の形態形成において細胞同士の接着は必須である。細胞分裂において植物細胞は動物細胞とは異なり、細胞板が形成されて細胞質分裂が完了する。つまり娘細胞は離れることなく細胞壁(細胞板)を介して接着した状態になる。この様に、細胞間接着にとって細胞壁は重要な役割を果たしているが、その生合成及びシステム構築の機構はほとんど明らかになっていない。現在までに半数体Nicotiana plumbaginifoliaの葉切片にアグロバクテリウムを介してT-DNAを挿入することで、不定芽形成能力の喪失と共に細胞接着性の低下した変異体nolac (non-organogenic with loosely attached cells)が作出され、そこからペクチン合成酵素が同定されている。
 そこで本研究では、アクティベーションタギング法を用いることでnolac変異体作出系を発展させ、さらに多種の細胞接着関連遺伝子の同定と解析を進めることを目的とした。これら変異体とその原因遺伝子の解析を行うことで、植物細胞間の接着が植物体の形態形成現象・細胞間認識に果たす役割について明らかにしていけるものと考えている。

【方法】
(1)変異体の作出
Nicotiana tabacumの葉切片不定芽誘導系に対して、4つタンデムに並んだ35Sプロモーターのエンハンサーをアグロバクテリウムを用いて導入することにより、変異の誘発を行った。得られた株の中から、器官形成が異常で、かつ、細胞接着性が弱い株を選抜し、培養した。
(2)変異細胞株の形態観察
走査型電子顕微鏡、光学顕微鏡、実体顕微鏡を用いて形態学的、組織学的観察を行った。

【結果・考察】
(1)変異の誘発を行った結果、葉の形態が異常で、細胞接着性の弱いものをスクリーニングした。現在7ラインの変異体が得られている。これら変異体は、nolacと異なり葉のような形態を持ち、葉の表面の細胞接着性が弱く、葉や茎が透明化しており、また、葉をピンセットでつまんで引っ張ると容易に脱落するという特徴を持つことから、shoot with loosely attached cellsの頭文字を取り、shoolacと名付けた。
(2)shoolacの7つのラインのうちshoolac1-3の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、特徴として、主脈においては縦方向のひび割れが、葉肉細胞においては細胞を取り囲むようなランダムなひび割れが見られた。また、気孔はほとんど見られず、大きな穴がランダムに存在していた。この穴は気孔に分化できなかったものではないかと推測している。さらに、shoolac1-3の葉の横断面を光学顕微鏡によって観察すると、葉が肥大し、肉厚になっているような異常な形態を示し、最外層の細胞列が不揃いであることから、表皮は分化していない可能性が考えられた。維管束は異常ながら存在するが、葉肉細胞の細胞間隙が大きく、間を埋めるように繊維状物質が網目状に分布し、はがれかかっている様子が観察された。以上のことからshoolac1-3は細胞接着に異常がある変異体であると考えられた。
 今後は、細胞接着に異常があると考えられる変異体のゲノミックPCRを行い、T-DNAが挿入されていることを確認した後、TAIL-PCRによるT-DNA近傍配列の決定を行い、変異の原因遺伝子を同定することで、形態形成において細胞接着が果たす役割を明らかにしたいと考えている。