つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

Tetrahymena アクチン結合タンパク質 fimbrin の in vivo における機能解析

松村 将 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 沼田 治 (筑波大学 生物科学系)



<導入・目的>
 細胞は様々な細胞運動を行なうことにより個体の維持・増殖を行なっている。細胞運動には細胞移動、細胞器官の輸送、細胞分裂などがある。これらの運動ではアクチン細胞骨格が大きな役割を果たしている。例えば細胞分裂は細胞の中央付近に分裂溝が作られ、徐々に分裂溝が深くなることで細胞が2つにくびり切れる。 分裂溝の進行は収縮環というアクチンとミオシンを含む環状の構造の収縮が大きな原動力となっている。収縮環にはアクチン、ミオシン、プロフィリンなどが含まれていることが知られているが、構成蛋白質と収縮機構の詳細は解っていない。本研究では収縮環をさらに理解するため、繊毛虫テトラヒメナ(Tetrahymena thermophila )の分裂溝に局在するアクチン結合蛋白質、フィンブリンに注目してその解析を行なった。フィンブリンは70 KDaの蛋白質で in vitro においてアクチンを密に束ねることが解っている。しかし、収縮環は分裂溝の陥入に合わせて収縮する柔軟な性質を持つので、フィンブリンは in vivo ではゆるいアクチン繊維束を形成している可能性がある。そこで in vivo におけるフィンブリンの解析するため、フィンブリン遺伝子発現のノックダウンを行った。

<方法>
1, アンチセンス法によるフィンブリンノックダウンテトラヒメナの作製
 テトラヒメナフィンブリン mRNA の非翻訳領域 5'UTR と相補的な配列を、リボソーマルDNAベクターである 5318DN に挿入した。5318DN には selection のために抗生物質 paromomycin 耐性遺伝子も含まれている。電気刺激を与えて細胞表面に孔を開けるエレクトロポレーション法によりベクターをテトラヒメナに導入した。導入はもっとも効果の高い接合開始10間後に行った。その後、paromomycin を使用して selection を行なった。この一連の操作により翻訳する段階でリボソームの rRNA とフィンブリン mRNA が2本鎖を形成し、翻訳が阻害され発現量が低下する。

2, フィンブリンノックダウンテトラヒメナの観察と増殖率計測
 ウェスタンブロッティングによりフィンブリンノックダウンテトラヒメナのフィンブリン発現量を調べ、形態的変化を観察した。また、フィンブリンは収縮環関連蛋白質であるので分裂に支障を来たす可能性がある。そのため細胞の増殖率を調べることで分裂する速さを野生型と比較した。

<結果・考察>
 paromomycin による selection の結果、paromomycin 存在下で生存する株を得られた。ウェスタンブロッティングを行なったところフィンブリン発現量の低下が確認できた。この株と野生型を比べると増殖に遅れが見られた。さらに野生型と比べて丸みを帯びる形態的変化も見られた。フィンブリンは収縮環の維持に大きな役割を果たしており、発現量低下により収縮環の収縮がうまく進行せず細胞分裂が遅くなったと予想される。またフィンブリンは口部装置や頂端部に局在することが解っており、形態変化はアクチン細胞骨格に何らかの影響があったことを示唆している。
 今後は in vitro in vivoでのフィンブリンの性質の違いがなぜ起こるのかを調べたい。何らかの調節機構が働いていると思われるが、テトラヒメナフィンブリンはヒトやニワトリのフィンブリンなどと違いCa2+感受性を持たない。したがって他のタンパクとの相互作用によって調節されているのかもしれない。それを調べるためにフィンブリン-アフィニティカラムを用いフィンブリンと結合する蛋白質があるかどうか探索してみたいと思う。一方、細胞分裂突然変異体 Cdac6 は収縮環を束ねる蛋白質に異常があることが電顕観察によって明らかにされている。したがってCdac6 を調べることでもフィンブリンの機能を明らかにすることができると考えている。