つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

ツバメの営巣場所選択における決定要因

宮中 亜季 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 徳永 幸彦 (筑波大学 生物科学系)


はじめに

ツバメ(Hirundo rustica)は本来コロニー性であると考えられている。 現在では人家や建物などの軒先の垂直壁面に分散して繁殖するという生活の適応 をしているが、コロニー性を維持した繁殖生活を営む例も知られている。 2001年、筑波大学構内に多くの古巣のあるコロニーが発見された。ツ バメの帰巣性は高く、そのために古巣の利用率も高いとされている。当時、コ ロニー繁殖と単独繁殖した番の繁殖成功率には差がなく、また、コロニー では古巣を再利用した場合と新しい巣を使った場合にも繁殖成功率に差はなかっ た。ただ、コロニーにおいて、古巣を別荘として同時に複数利用する番が存在 しており、同格子内にある繁殖巣の監視台や第二繁殖の場として、あるいは親の寝 床として古巣を利用していた。古巣を利用するにあたってのコストのひとつとし て、ダニの影響があげられる。そのために、雌より早く繁殖地に訪れる雄はダニ の少ない巣を選ぶとされている。構内のコロニー繁殖において古巣再利用によ るスズメサシダニ(Dermaryssus hirundinis)の影響はあるのか確かめる ために、繁殖後の巣からダニを捕獲し、ダニの数とツバメの繁殖結果との関係か ら、コロニーが発達した理由と古巣の再利用による利益を調べた。

調査方法

筑波大学構内でのコロニー営巣と単独営巣でのツバメの繁殖を繁殖期間(3月中 旬から8月下旬)を通して観察した。雛が巣立った巣からは、巣立ち日の翌朝にダニ を捕獲し、その数を数えた。繁殖結果について、コロニー繁殖と単独繁殖で比較 し、ダニがそれぞれの繁殖結果に影響しているかどうかについても比較した。

結果と考察

コロニー繁殖と単独繁殖には、繁殖結果において差がなかった。また、コロニー で古巣を再利用していた番の繁殖結果に対しての明らかなダニの影響はなかった。 つまり、古巣の利用は繁殖結果に影響しないと考えられる。コロニーには多くの 古巣があるので、渡来時にその中からより良い状態の古巣を選択することも可能 であり、例え繁殖途中に失敗したとしても、古巣を利用することによって、新し い巣の創造に費やす時間コストを削減することもできる。古巣の存在はコロニー 繁殖するツバメにとっての大きな財産だと考えられ、コロニー繁殖が発達した要 因とも言えるだろう。しかし、ダニの捕獲方法についてはまだまだ未熟な面が多 く、信頼性も低いものであるので今後の課題としてあげられる。