つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

テトラヒメナの膜裏打ち構造に局在するタンパク質TCBP-25の機能解析

村山 壮一 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 沼田 治 (筑波大学 生物科学系)


<導入・目的>
 細胞形態の維持には細胞骨格の存在が必須である。だが、独自の細胞形態を決定・維持するためには更なる要素が必要である。例えば、赤血球はドーナツ状構造とよばれる特殊な構造をしているが、spectrinやactin、ankyrin、バンド4.1などの蛋白質からなる細胞膜裏打ち構造がこの構造を維持すると考えられている。つまり、細胞の形態を維持したり決定したりするためには細胞膜直下の構造を無視することができないのである。
 繊毛虫テトラヒメナの細胞膜裏打ち構造には3種類の主要な蛋白質と2種類のカルシウム結合蛋白質が含まれることが分かっている。その1つがTCBP-25(Tetrahymena-Calcium-binding-protein 25kDa)である。TCBP-25は基底小体周辺を除く細胞表層全体に局在するEF-hand型のカルシウム結合蛋白質である。TCBP-25の細胞内での役割については、接合過程の受精時に移動核と静止核の周辺、および接合面に局在して、移動核の交換に関与していることが明らかにされた。しかし、細胞膜裏打ち構造や細胞骨格との関連、細胞形態への関与についてはほとんど分かっていない。
 繊毛虫テトラヒメナは遺伝子操作に適した実験材料である。mRNAはリボソームで翻訳されるが、リボソームRNA中に標的mRNAの非翻訳領域の相補的配列を設計する事により翻訳を阻害する事ができる。そこで私は、TCBP-25のRNAiを行って、生体内でのTCBP-25の発現量を減少させ、細胞にどのような影響を及ぼすかを調べた。

<材料・方法>
アンチセンスリボソーム法により、TCBP-25の発現量を低下させ、in vivoでの表現型を調べた。
  ・ベクターの作製
 2種類のTCBP-25アンチセンスDNA(longとshort)をribosomal DNAベクター 5318DNに挿入した。longは69bpの非翻訳領域と41bpの翻訳領域を含み、shortは69bpの非翻訳領域と22bpの翻訳領域を含む。コントロールとして細胞への影響を与えないことが分かっている配列を挿入したベクター(33A10)を用いた。5318DNにはparomomycin耐性遺伝子が含まれ、ベクターがゲノムに導入された細胞は抗生物質paromomycinへの耐性を獲得する。
 ・Transformation
 性型の異なる二種類の株CH1とCB1を用いた。log-phaseのCH1とCB1を10mM Tris buffer(pH7.4)で飢餓状態においた。24h後、CH1とCB1を混合し接合を誘導した。さらに10h後、electroporation法で新たに作られた小核にベクターを挿入した。培地中に0.13mg/ml paromomycinを加え、30℃でselectionをかけた。
 ・Western blotting法
 Western blotting法により、細胞内のTCBP-25の発現量を検量し、Wild typeとの比較からTCBP-25の発現が抑制されているか確認した。コントロールとして主要な蛋白質であるalpha-tubulinの発現量を調べた。一次抗体は、抗TCBP-25ポリクローナル抗体、抗alpha-tubulinモノクローナル抗体を用いた。

<結果・考察>
 paromomycin耐性を獲得した株が得られた。Western Blotting法により、これらの細胞株でTCBP-25の発現量が野生型に比べて減少していることを確認した。また、alpha-tubulinの発現量が野生型と変わらなかったことから、ベクターの挿入がリボソームの機能を阻害し、他の蛋白質の翻訳を阻害することで細胞に影響を及ぼすことが否定された。
 RNAiはTCBP-25の役割を知るためのスタート地点であり、今後の実験方針を見誤らないために、表現型の観察は慎重に行った。transformantsに以下ような表現型が観察された。@静置培養下で、細胞の破裂が見られた。破裂の原因は不明だが、細胞膜の強度が減少していると考えられる。A増殖速度の低下。B細胞形態の異常;表面がでこぼこしたいびつな細胞、球状の細胞などが見られた。 
 これらの表現型から、TCBP-25は細胞膜裏打ち構造から細胞膜に正常な強度を付加し、同時に微小管などの細胞骨格と協調して細胞の形態を維持していると考えられる。TCBP-25と相互作用する蛋白質は未だ不明である。TCBP-25による形態維持機構を解明するためには、TCBP-25と直接的、間接的に相互作用する蛋白質を同定する必要がある。そこで、今後の方針としてはTCBP-25を単離・精製し、テトラヒメナ蛋白質のうちいずれと結合するかを調べる予定である。今回の結果から、細胞骨格を構成する蛋白質との関与を見込んでいる。