つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

ショウジョウバエ中枢神経系におけるunc51遺伝子の機能解析

望月 洋明 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 古久保(徳永) 克男 (筑波大学 生物科学系)


複雑な神経回路網を形成するには、神経細胞は軸索を形成し、さらにその軸索を正しいターゲットへ投射することが必要である。 たくさんの遺伝子やタンパク質がこれらの過程において重要な役割を果たしていることが知られているが、軸索形成のメカニズムというのはまだ不明な点がおおくのこされている。 そこで、このメカニズムを解くために私達が着目したのはDrosophila unc51遺伝子である。 unc-51とは、もともと線虫の行動異常(uncoordinated)を伴う変異体から見つかってきた遺伝子である。 線虫で行動異常を起こす変異体は、一般に神経の軸索形成に異常があるものが多く、このunc-51も多くの神経細胞の軸索発生に影響を及ぼしていることがわかっている。 このunc-51は、セリン/スレオニンキナーゼ活性を持つタンパク質をコードしており、線虫では神経の細胞体と軸索とに存在し、さらに線虫のみならずヒトやマウスにも保存されている遺伝子である。 このタンパク質が、脳の高次構造形成にどのような機能を持ち、さらにどういった分子メカニズムで中枢神経の軸索形成に関わっているのかを調べるために、私は発達した脳を持ち、かつ分子遺伝学解析に有利なショウジョウバエを用いて研究を行っている。

Material& Method

・ 抗体染色
 Drosophila UNC51 の発現を詳細に調べるために、UNC51のカルボキシル末端 300 アミノ酸とGSTとの結合タンパクを大腸菌内で調整し、これに対するポリクローナル抗体を作成した。 この抗体を用いて、共焦点レーザー顕微鏡(ZeissLSM510)でショウジョウバエ3齢幼虫の脳におけるUNC51の局在を調べた。

・ 遺伝子欠失変異体の作成
 P因子とトランスポゼースをもつ系統を掛け合わせると、トランスポゼ ースがP因子を認識してゲノムからP因子を取り除く。 このとき、その多くはP因子だけを取り除くが、まれにP因子の周辺のゲノムまでも削ってしまうことがある。 この性質を利用して、Drosophila unc51の近傍にP因子が挿入されている系統を用いて、P因子の下流に存在する開始メチオニンまでを削ってしまうような系統を特定した。 P因子が抜けた系統を150作成し、そのなかから開始メチオニンを欠く様な系統をPCRを用いてスクリーニングした。

Result

・ UNC51 の発現を3齢幼虫の脳で調べた結果、視葉やキノコ体含む広範囲な部分で発現があり、腹部神経節においても強く発現が見られた。 特にキノコ体のpeduncleと呼ばれる部分では、その中心層において特に強いUNC51の発現が見られた。

・ 変異体でキノコ 体のpeduncleを観察すると、中心層の構造に異常が見られた。 さらに胚発生期に腹部神経節をみたところ、非常にひどい形態変化が見られた。

・神経軸索形成の過程には、神経が正しい方向に伸びるという要素のほかに、シナプス小胞が微小管上を伝わってシナプスに向けて届けられるという重要な側面もある。 そこでunc51の変異体がシナプス小胞輸送に関わっているかどうかを確かめるため、シナプス小胞マーカーのシナプトタグミンで染色してみた。 すると、運動神経において変異体ではシナプトタグミンが集積していることがわかった。

Discussion

 抗体染色によりDrosophilaUNC51は、神経全体で発現していることがわかった。 特に3齢幼虫の脳では、伸長中の軸索で強く発現していることが確認できた。 さらに、変異体を解析することによって、UNC51が神経伸長、誘導、収束に関わっていることがわかった。 また、野生型に比べ、変異体ではシナプトタグミンが運動神経において集積していることがわかり、これはUNC51が神経小胞輸送にも重要な役割をしていることが伺える。 この事実は、変異体の運動異常の直接的な原因が、運動神経におけるシナプス小胞輸送異常であることを示唆している。
 今後は、UNC51の免疫電顕をおこない、神経細胞中でのより詳細な局在を知ることによりUNC51の機能を調べていく予定である。 また、シナプス小胞輸送との関連を調べるために、野生型と変異体の運動神経を電顕によって観察したい。