つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

VA T-bet/Yaaマウスの解析

山田 亜希子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 高橋 智 (筑波大学 基礎医学系)  責任教官: 加藤 光保 (筑波大学 基礎医学系)


〈背景、目的〉
 ヘルパーT細胞は、Th1細胞とTh2細胞の2つのサブセットに分類される。Th1細胞は主にIFN-γを産生し細胞性免疫に関係しており、一方Th2細胞は、主にIL-4、IL-5を産生して液性免疫に関与している。Th1細胞とTh2細胞は、それぞれに特異的な転写因子の働きによって前駆細胞であるThp細胞から分化する。Th1分化に関わる転写因子としてT-bet、Th2分化に関わる転写因子としてGATA-3、c-mafが挙げられる。T-betは、転写因子T box familyの一つでTh1細胞特異的に発現し、IFN-γ遺伝子の転写活性化などによってTh1分化を促進し、反対にTh2分化のプログラムを抑える。このような転写因子の働きによって、生体内ではTh1/Th2バランスが均衡に保たれているが、このバランスが崩れると様々な疾患が引き起こされると考えられている。Th1がTh2より優位になると自己免疫疾患が起こり、逆にTh2が優位になるとアレルギー発症の原因となることが論じられている。
 BXSB/MpJ-Yaaマウスは自己免疫疾患を自然発症するモデルマウスであり、Th1が優位の状態にある。このマウスにT細胞特異的にGATA-3を過剰発現させたトランスジェニックマウス(VA GATA-3/Yaa)では自己免疫性腎炎が改善することが当研究室で示されている。これは、GATA-3の過剰発現によってTh1優位の状態からTh2優位の状態になったためだと考えられる。そこで本実験では、Th1優位の促進が病態の進行に関与することを明らかにするため、BXSB/YaaマウスのT細胞特異的にT-betを過剰発現させて、自己免疫性腎炎が増悪するかを検討する。

〈方法〉
 human CD2プロモーターを持ち、目的のcDNAをT細胞特異的に発現させることができるVAベクターを用いたtransgenic mouse(VA T-bet)を当研究室ではすでに731lineと725lineの2line作製している。このVA T-betマウスとBXSB/Yaaマウスをかけあわせて、T細胞特異的にT-betを過剰発現するマウスを作製する(VA T-bet/Yaaマウス)。VA T-bet Tgの遺伝的なbackgroundをB6にそろえてYaaマウスとのかけあわせを行い、Tgマウスの10、15、20、25、30、40Wにおける自己免疫疾患の解析を行う。腎障害の評価として尿タンパク、血清中のクレアチニン濃度と総タンパク量を測定し、さらに、自己免疫の病態評価として血清中の抗IgG抗体量、抗dsDNA抗体量をELISA法を用いて測定する。脾臓、肝臓、腎臓、胸腺、心臓、肺の組織切片を作り、自己免疫疾患の重篤度を組織学的に評価する。

〈結果、考察〉
 血清中の総タンパク量変化、クレアチニン濃度変化では、transgene positive(Tg)のマウスとwild type(WT)のマウスで20週齢までは有意な差は見られなかった。今後クレアチニンクリアランスの測定を行い、さらに詳しく解析する予定である。組織学的評価については、現在解析中である。20週齢の731line Tgのマウスの血清中抗IgG量がWTのマウスよりも多かったので、今後、IgG1、IgG2、IgG3の量をそれぞれ測定する予定である。また、725lineにおいて15週齢、30週齢での血清中の抗dsDNA抗体量を測定したところ、Tgマウスでは15週齢の段階ですでに抗体量の増加が見られた。この結果は、自己免疫疾患を自然発症するYaaマウスでは、T細胞特異的にT-betを過剰発現させることでTh1側へとさらにシフトし、自己免疫疾患の発症が促進されている可能性を示すものと考えられる。
 今後、サンプル数を増やし、さらに解析を進める予定である。