つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

クロロゲン酸類を含む植物の抗酸化作用と消臭作用

湯浅 明子 (筑波大学 生物学類 4年)  責任教官: 田中 俊之 (筑波大学 応用生物化学系)
                           指導教官: 根岸 紀 (筑波大学 応用生物化学系)


<背景>
 通常の酸素より反応性の高い、スーパーオキシドヒドロキシルラジカル、一重項酸素、過酸化水素などは、一般に活性酸素と呼ばれる。これらの活性酸素は、生体膜の主成分である脂質を酸化するラジカル連鎖反応を引き起こすほか、タンパク質や核酸をも酸化し、生体にとって有害である。
 ベンゼン環に複数のOH基がついた構造を持つポリフェノール類は、この活性酸素を捕捉・消去し、その害から生体を守ることが知られている。ポリフェノール類のうち、カテキンやアントシアニジンなどのフラボノイドでは、すでにその抗酸化性について、多くの研究がなされている。
 本研究では、非フラボノイド型ポリフェノールの一つである、クロロゲン酸類を含む食用植物の、抗酸化作用、消臭作用について調べた。クロロゲン酸(5-CQA)は、コーヒー酸とキナ酸のエステルであり、2つの異性体(3-CQA、4-CQA)を持つ。これらと、3種類のジクロロゲン酸(3,4-diCQA、3,5-diCQA、4,5-diCQA)を、まとめてクロロゲン酸類と呼ぶ。クロロゲン酸類は、多くの植物に含まれ、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、ペルオキシドなどを効果的に捕捉することが知られている。

<材料・方法>
 クロロゲン酸類を含む食用植物として、9種類の苦丁茶、マテ茶、コーヒー、苦丁茶の原料となるIlex属の植物5種類(ヒイラギモチ、アオハダ、クロガネモチ、モチノキ、タラヨウ)、および14種類の野菜(ゴボウ、バジル、ヨモギ、フキノトウ、ホウレンソウ、菊2種、ウド、オクラ、ナス、サツマイモ3種)、2種類のキノコ(マッシュルーム、ハナイグチ)を用いた。各種分析方法は、以下の通りである。

(1)HPLCによるクロロゲン酸類の定量
 苦丁茶およびマテ茶は、粉末にしたもの1gを80mlの熱水によって2回抽出し、200mlに定容した。野菜、キノコ類は凍結乾燥粉末1gを80%アセトン100mlを用いて3回抽出し、抽出液を濃縮しアセトンを除いて50%メタノールで100mlに定容した。こうして得た試料液5μlを、HPLCで分析し、試料100gあたりのクロロゲン酸量を求めた。
(2)総ポリフェノール定量
 1)で得た試料抽出液に、蒸留水、10%炭酸ナトリウム水溶液、Folin-Ciocaltus試薬を加えて、暗所で1時間反応させ、760nmの吸光度を測定した。5-CQAを用いて検量線を作成し、試料中の総ポリフェノール量を5-CQAに換算して求めた。
(3)ポリフェノールオキシダーゼ活性測定
 アセトンを用いて試料を抽出した際に得られるアセトンパウダーに含まれるポリフェノールオキシダーゼの活性を測定した。各試料のアセトンパウダーに、リン酸緩衝液、10mM 5-CQA溶液を加え30℃で反応後、上清の420nmの吸光度を測定した。
(4)β-カロテン退色による抗酸化能測定
 各試料抽出液に、リノール酸-β-カロテン溶液を加え、470nmにおける吸光度を測定した。その後、50℃で反応させながら、10 分ごとに吸光度を測定し、退色の程度から抗酸化能を調べた。
(5)消臭活性測定
 野菜、キノコ類の凍結乾燥粉末を入れたバイアル瓶に、0.1%メチルメルカプタン溶液と蒸留水を加え、25℃で3分間振とうした。このバイアル瓶中の気体を、NO.70L検知管に吸引してメチルメルカプタン捕捉能を調べた。苦丁茶、マテ茶については、凍結乾燥粉末は用いず、蒸留水の代わりに、試料抽液を用いた。

<結果>
 クロロゲン酸類が特に多く含まれていたのは、苦丁茶、マテ茶、アオハダ、クロガネモチ、タラヨウであり、野菜ではバジル、ヨモギ、フキノトウ、ナスに多かった。総ポリフェノール量についても同様の結果になった。抗酸化能は、フキノトウで最も高い結果となり、その他には、クロガネモチ、タラヨウ、黄色の菊なども高かった。消臭作用に関しては、抗酸化作用と同様に、生の食用植物で強い活性が見られた。苦丁茶抽出液では、活性は弱かったが、少量のリンゴアセトンパウダーを加えることによって強い消臭能が得られた。