つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

遺伝子導入マウスにおけるテトラサイクリン誘導システムの評価

吉田 直樹 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 八神 健一 (筑波大学 基礎医学系)


(目的)
近年、トランスジェニックマウスを使ったin vivoでの遺伝子解析が盛んに行われている。しかし、強い細胞傷害性を持つ遺伝子をin vivoで過剰発現すると、胎児期に死亡する可能性があり、成体での機能解析は不可能である。そのため、胎児致死性の遺伝子の解析には導入遺伝子の発現時期を制御することが重要である。Tet-on systemは、テトラサイクリン誘導体であるDoxycyclineが存在すると、プロモーター領域に存在するTRE(tetracycline responsive element)にテトラサイクリン依存性転写調節因子(rtTA)が結合することにより遺伝子の発現が誘導されるシステムである。このTet-on systemを応用してトランスジェニックマウスを作成することで、致死性遺伝子の解析がin vivoでも可能になると考えられる。
パルボウイルスは胎児の先天異常や流産、脳炎、肝炎などの多様な疾患を引き起こす。感染初期に発現する非構造タンパク質(NS)はウイルスの増殖に必須で、病原性に深く関わっていると考えられるが、過剰発現により宿主細胞にアポトーシスを起こすため、NSを過剰に発現するトランスジェニックマウスは胎児期に死亡し生まれてこない。そこで時期特異的なNSの発現による病態の解析を目的とし、Tet-on systemを応用することで胎児期におけるNSの発現を抑制し、成長した後にDoxycycline投与によってNSの発現を誘導できるトランスジェニックマウスを作製した。本研究では、まず、本システムが期待どおりに誘導的な発現を起こしているかどうかを検討した。

(方法)
TREをもつプロモーターをNS遺伝子の上流に持つトランスジェニックマウス(NSマウス)及びrtTAを発現するトランスジェニックマウス(Tetマウス)を作製し、両マウスを交配させることで、NSとTetの両トランスジーンを持つマウスを得た。rtTA遺伝子とNS遺伝子は、マウスの尾部よりゲノムを抽出し、PCR法により検出した。
rtTA遺伝子とNS遺伝子の両方をヘテロに持つマウスにDoxycyclineの濃度2mg/mlとなるような5%スクロース液を6日間飲水投与した後、NS遺伝子及びNSタンパクの各臓器での発現量をRT-PCR法及びウエスタンブロッティング法を用いて検討した。

(結果および考察)
Tet及びNSトランスジーンをBDF1マウス受精卵にマイクロインジェクションし、それぞれ10 line (4, 14, 27, 52, 65, 90, 135, 138, 153, 162)および2 line (119, 207)を得た。また、Tetマウスのうち1系統(Tet 4)はトランスジーンをY染色体上に持つことがわかった。
両トランスジェニックマウスの交配(52x207、65x207、90x207、153x207)により、両トランスジーンを持つマウスを得て、これらにDoxycyclineを投与した後、各臓器でのNSタンパクの発現量をウエスタンブロッティング法で検討した。その結果、脳での発現は弱く、肺で強い発現が見られたが、Doxycycline投与による遺伝子発現の誘導なしでもNSタンパクの発現があり、Doxycycline投与による遺伝子発現誘導に有意な差は見られなかった。また、ウエスタンブロッティングの結果、検出されたNSの分子量は本来の大きさよりも小さいことが推測され、不完全なNSが発現していることが示唆された。

(今後の展望)
NSマウスにおいて遺伝子発現のリークが示唆されたため、以下の方法でTetマウスの評価を検討中である。1)Tetマウスの各臓器でのrtTAタンパクの発現量の解析をウエスタンブロッティング法により検討する。2)TREをプロモーターに持ちGFPを発現するマウス(TRE-GFP)をTetマウスと交配し、Doxycycline投与によるGFPの誘導的発現をフローサイトメトリーを用いて検討する。
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