つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3, XX   (C)2004 筑波大学生物学類

高度好熱菌Thermus thermophilus HB27株のカロテノイド生産能変異株の解析

鷲岡 みさと (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 鈴木 隆久 (筑波大学 応用生物化学系)


<導入・目的>
 高度好熱菌Thermus thermophilus HB27株はカロテノイド配糖体の脂肪酸エステルという特有のカロテノイドを生産する。このカロテノイド生合成を行う遺伝子群は巨大プラスミドpTT27上にクラスターとして存在している。T. thermophilus HB27株からはカロテノイド生産能変異株が多数得られており、野生株との色の比較から12の低(非)生産株と、13の過剰生産株に分けられている。低(非)生産株は変異遺伝子の異なる3つのグループに分類されることがわかっているが、カロテノイドの過剰生産を引き起こす原因はまだ解明されていない。そこで、カロテノイド過剰生産株の変異部位、変異様式を明らかにすることを目的とし、カロテノイド生合成系の律速遺伝子の一つであるcrtB(フィトエン合成酵素遺伝子)周辺について解析をおこなった。



Fig. HB27株のcrtB遺伝子周辺の制限酵素地図
    太線で示したcrtBを含む1.5 kbの配列は決定されている。この部分をSouthern hybridizationのプローブとして用いた。

<方法・結果>
・Southern hybridizationによるcrtB周辺領域についての解析
 プローブはcrtBを含む1.5 kbのフラグメントを95℃で一本鎖化し、DIG (digoxigenin)によってラベルしたものを用いた。T. thermophilus HB27株と、カロテノイド過剰生産変異株(Cop mutants)であるCop101, Cop110, Cop114株のtotal DNAを制限酵素で処理し、電気泳動に供した。これをアルカリ変性溶液で処理し、DNAをゲルからナイロンメンブレンフィルターに移しとり、ハイブリダイゼーションを行い、DIGの抗体を用いて目的のバンドを検出した。
 結果、AflU, BamHT, HindV, KpnT, PstT, SacTなどの制限酵素を用いて調べたが、すべて野生株と過剰生産株のバンドパターンが一致したため、大きな欠失や配列の変化などの変異を確認することはできなかった。そこで、より詳細な配列の変異を調べるため、crtB周辺領域のクローニングをし、配列を決定することとした。
crtB周辺領域のクローニング
 野生株、カロテノイド過剰生産株のtotal DNAを制限酵素で処理して電気泳動に供し、目的とするサイズのDNAを抽出する。これを同じ制限酵素で処理したpUC19ベクターにつなぎ大腸菌に導入する。得られた形質転換体から、crtB周辺領域のインサートをもつクローンを選択するため、crtBをプローブとしたcolony hybridizationを行う。目的とするクローンが得られたら配列を決定し、過剰生産株のcrtB周辺領域に変異があるか調べる。またそれらの塩基配列よりcrtB以外のカロテノイド生合成系遺伝子の存在部位が明らかとなることも期待される。