つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3: TJB200407YN.

特集:大学説明会

マンチェスター大学留学体験談

中尾 優希(生命環境科学研究科情報生物科学専攻2年)

 私がマンチェスター大学交換留学生としてイギリスへ渡ったのはもうかれこれ三年前のことであり、今回の留学体験談を依頼された時、帰国したてのフレッシュな気持ちが薄れつつある自分が高校生に何を伝えられるか、不安になりました。しかし、実際に準備に取り掛かってみると、まるで先日までのことのようにイギリスでの生活、感じたこと考えたことが思い起こされてきました。先生のアドバイスもあり、短い時間で高校生に伝えるメッセージを三つの点に絞ってお話しすることにしました。まず、なぜ留学を考えるようになったのか、二つ目にイギリス・マンチェスター大学での生活と感じたこと、三つ目に、この留学で得たこと、この三点です。

 私が生物学類に入学したのは1999年、ちょうどマンチェスター大学交換留学プログラムが始まった年でした。入学後にこのお話を聞き、漠然とした興味はあったものの、初めての一人暮らし、初めての大学生活にどっぷりと浸かり、エンジョイしまくっていた自分にとってはまさか二年後に自分がこのプログラムに参加するなどとは想像もできませんでした。しかし、二年生に入り、生活も気持ちも少しずつ落ち着き、友人とは真剣に将来の夢なども語るようになったころ、自分は将来どんな人間になりたいのか、目指す自分に足りないものだらけの現実に気づきました。そこで、特に研究面で国際的に活躍できる人間になりたいという夢と、短期の語学留学ではなく大学に在籍し生物学を学ぶことができるという最大の利点、異文化にどっぷり浸かってみたいという理由で、マンチェスター大学交換留学プログラムに応募することを決めました。もちろん、英語力などには自信が持てるような状態ではありませんでしたが、何はともあれ挑戦してみたいという意思を、先生方が汲んでくださった(さすが生物学類の先生方です)のか、一年後のマンチェスター大学留学を現実のものとすることができました。

 マンチェスター大学での生活については下記、つくば生物ジャーナル第一号を参照していただきたいと思います。今回、私も改めて帰国した直後に書いたこの文章を見直してみましたが、エピソードの一つ一つについて思い出され、書かせていただいた本人にはとても感慨深いものがありました。高校生の皆さんには、もっと写真などを見ていただきたかったのですが、紹介程度にとどまってしまって残念です。

 留学を経て得たことについて、まず、様々な人との出会いは言うまでもありません。研究室の先生方やメンバー、寮でのフラットメイト達、そこから広がってきた友達の輪や語学クラスでの友達、行く先々で知り合い交流する人達すべてから感動や刺激をもらいました。特に、マンツーマンで研究を見てくださった先生には、「父の背中」ならぬ「研究者の背中」を見ることができました。その背中から、「科学すること」と「人の喜びに繋がること」を仕事にしたいと思う今の自分に繋がっています。もちろん、日本でもかけがえのない出会いはたくさんあります。筑波大学での友達はわたしのイギリス留学のきっかけをくれただけでなく、留学中もいつも支えてくれました。そんな友情のかけがえのなさに気づいたことや感謝の気持ちも、イギリス留学で経たことの一つです。また、メンタル面では、何事にも迷う前に挑戦すること、自ら情報や刺激を求めて行動すること、目標を持ち続けることの大切さを学びました。母国語でない英語は、十ヶ月という短い間では「話すことに対しての恐怖感を取り除く」くらいのものにしかならなかったようにも思います。しかし、少ないボキャブラリーで自分の考えていることや感じたこと、自分自身のことを効果的に伝える(アピールする)ことが身についたように思います。日本語でのコミュニケーションでも同じことが言えると思います。豊富なボキャブラリーがあるからこそ、簡潔に、素直に自分の思いを伝えることはとても大切なことであると思います。今年の冬の就職活動では、この経験がとても役に立ちました。ありきたりの言葉や「こうでなければならない」という先入観ではなく、自分の想いを自分の言葉で精一杯伝えること。「聞いて欲しい、伝えたい」という気持ちと「聞いてみよう、理解してみよう」という気持ちの交流が、英語であれ、日本語であれ、コミュニケーションに一番大切なことであることを学びました。

 最後に高校生の皆さんに伝えたいことを二つ。受験勉強、大学受験はとても辛い試練です。わたしも八年前、この大学説明会に参加し、生物学類に惚れ込んで浪人まで経験して想いを叶えましたが、合格したあの瞬間は一生忘れられない喜びの瞬間でした。辛い思いは今だけ。乗り越えられれば至福の大学生活が待っています。頑張ってください。もう一つ、大学合格は決してゴールではありません。時間と気持ちの余裕がたっぷりの大学生活四年間で、自分の将来に繋がるような一生の財産や友達を得るために自ら行動し、目標を持ち続けてください。私にとって、このマンチェスター大学留学は一生の財産になるような経験になりました。もちろん、大学生のこの時期であったからこそ、勉強での成果だけでなく、気持ちに余裕を持って得られるだけのことを得て帰ってこられたと思います。このような機会を与えてくださった先生方や両親にも、とても感謝しております。そして、これから生物学類を目指し、入学してくる高校生の皆さんにも、ぜひこのマンチェスター大学交換留学プログラムをチャンスのひとつとして挑戦していただきたいと思っています。

参照:2002年度 大学説明会に参加して
(つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2002) 1, 76-77)
マンチェスター留学体験記
(つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2002) 1, 98-99)

Communicated by Jun-Ichi Hayashi, Received August 2, 2004.

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