つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100726

パルボウイルスNS遺伝子の導入によるヒト白血病細胞の形質の変化

秋野 雅一 (筑波大学 生物学類 4年 )  指導教員:八神 健一 (筑波大学大学院 人間総合科学研究科)

 パルボウイルスは、パルボウイルス科パルボウイルス属に属し、一本鎖線状DNAを持つウイルスで、多くの生物種に固有のパルボウイルスが存在する。ヒトではB19、ラットではRPV、マウスではMVMやMPVなどである。パルボウイルス感染により、胎児死亡、造血障害、肝炎などが引き起こされる。
 パルボウイルスの非構造タンパク質として知られるNSタンパクは、多機能タンパクとしての性質を持ち、ウイルスDNAの複製やプロモーターの調整を行っているとともに、細胞傷害性を有している。またアポトーシスを誘導することも示唆されている。さらにMVMやB19においては、細胞周期の休止に関与しているとされている。新規分離株であるRPV TU株は、in vivoでは造血系組織で、in vitroではTリンパ腫細胞C58(NT)で特異的に増殖し、感染細胞に細胞死を起こすほか、細胞接着性の亢進、微柔毛の発達などを引き起こした。このような結果がNSにより誘導されていることが示唆された。
 そこで、本研究では、NS発現レトロウイルスベクターを作製し、NSの発現による組織の変化をin vitroおよびin vivoで検討することを目的とした。


《材料・方法・および結果》
◇ NS/EGFPおよびEGFP発現レトロウイルスベクターの作製
 RPV由来NS発現レトロウイルスベクター、EGFP発現レトロウイルスベクターを、それぞれ水泡性口内炎ウイルスの膜タンパクであるVSV-GとともにLipofectamin2000を用いて、293gp細胞にcotransfectionさせた。その後、16時間ごとに培養上清を回収、遠心によりウイルスを濃縮した。ウイルスベクターの力価はFACS(Fluorescence-Activated Cell Sorter)を用いて測定した。
 その結果、NS発現レトロウイルスベクターでは最大1.56×107(IU/ml)、EGFP発現レトロウイルスベクターでは最大4.37×108(IU/ml)の力価のウイルスベクターを作製することができた。

◇ K562細胞への感染実験
 5MOIの各ウイルスベクターをK562に感染させ、細胞数の推移、形態の変化を経時的に観察した。
 しかし、若干の細胞数の低下は見られたものの、導入効率が低く、明確な傾向は確認できなかった。

◇ラット胸腺への感染実験
 約8.0×104IUの各ベクターをラット新生仔胸腺内に接種し、NSの発現、アポトーシスの誘導を、RT-PCR、FACSにより解析した。また、経時的に組織を採取し、組織学的な観察を行った。現在、実験を進行中であり、得られたデータを発表する予定である。


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