つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100728

動物・植物におけるサイトカイニンリボシドが誘導するプログラム細胞死の研究

阿部 亮介 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員: 酒井 慎吾 (筑波大学 生命環境科学研究科)

<<背景・目的>>

 動物における自律的な細胞死であるアポトーシスは、細胞質の収縮や核のへテロクロマチンの凝集、細胞のアポトーシス小体への分断、DNAの断片化などいくつかの特有の現象を伴って起こる事で知られている。
 近年、HL-60ヒト白血病細胞において、サイトカイニン(以下Ck)が分化を、サイトカイニンリボシド(以下CkR)がアポトーシスを引き起こすことが報告された。さらに、タバコBY-2培養細胞においても、CkRがアポトーシスに非常によく似た細胞死を引き起こすという報告があり、この二つの細胞死は共通の機構を持っているのではないかということが考えられる。しかし、Arabidopsis thaliana、carrot培養細胞では、Ckによってプログラム細胞死(以下PCD)が誘導されたという報告もあり、これらの細胞死機構が本当に共通の機構であるかはわかっていない。
 この研究では、CkRによるPCDが、動物細胞と植物細胞においてどのような機構で起こっているのかを明らかにすることを目的とする。


<<作業仮説>>

・植物においても動物においてもPCDを起こしているのはサイトカイニンリボシドである
・植物においてはサイトカイニンはサイトカイニンリボシドに変換されることによってPCDを起こす


<<研究方法>>

1.タバコBY-2培養細胞を用いたCkR、CkによるPCDの確認
2.Ckの代謝経路の調査
3.カルス 、分化した細胞におけるCkR、CkによるPCDの誘導効果の検討
4.CkR、Ckの種類によるPCDの誘導効果の検討


<<結果と考察>>

・CkR、CkによるBY-2の細胞増殖阻害
 5μM以上の濃度でCkR、CkともにBY-2の細胞増殖阻害が確認された。CkRとCkで若干の細胞数の違いが見られたが、これがそれぞれの物質の違いによるものかどうかはより多くのCkRとCkを用いて調べる必要がある。
Fig.1
カイネチン(Ck)、カイネチンリボシド(CkR)を含むLS培地でタバコBY-2培養細胞を4日間培養した時の細胞数


・PCDによるDNAのラダー化
 次にこの細胞増殖阻害がPCDによるものかを調べた。CkR、Ckともに3日目、4日目においてDNAがラダー状に切断されているのが確認された。これによって、CkR、CkはともにPCDを引き起こしていたことが確認された。しかし、この結果ではCkの方がCkRよりも顕著なラダー化を起こしているように見える。このことは、植物においてCkがCkRに変換されることによってPCDを起こすのではなく、CkRがCkに変換されてPCDを起こしている可能性を示している。

Fig.2
左から、Ct0、1、2、3、4日目、λEcoT14l、イソペンテニルアデニン(Ck)1、2、3、4日目、イソペンテニルアデノシン(CkR)1、2、3、4日目の細胞から抽出したDNAを電気泳動した

 今後は、植物においてCkがCkRに変換されることによってPCDを起こすのかどうかを調べるため、フェニルウレア系Ckやリボース転移酵素阻害剤を用いた、Ckの代謝経路の調査等を行っていく予定である。


©2005 筑波大学生物学類