つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100729

コンドロイチン硫酸の軸索ガイダンス効果の細胞培養を用いた検討

安藤 覚(筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:一條 裕之 (筑波大学人間総合科学研究科)

[導入・目的]
 発生の際に神経回路網がどのように形成されていくかを明らかにすることは、神経系が様々な高次神経活動を獲得していったメカニズムを解明する大きな手がかりとなる。神経回路網の形成は、時間的・空間的に様々な要素によって調節を受けている。この調節を行う因子の一つとして、反発性の軸索ガイダンス因子コンドロイチン硫酸(CS)があげられる。これは、生体内ではコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)として存在し、CSと呼ばれる二糖単位が繰り返し連なったグリコサミノグリカン(GAG)鎖がコアプロテインに結合した構造をしている。CSPGをはじめとしてプロテオグリカンでは、性質や細胞機能メカニズムなど明らかになっていないことが多く、他のガイダンス因子ほど研究が進んでいない。
 プロテオグリカンは、コアプロテインの違いによって種類が分けられる。さらに、CSは硫酸基の修飾位置が異なった多型が存在しており、GAG鎖中の多型の存在様式に由来した多様性がみられる。この多様性が、軸索伸長に異なった影響を与えているかもしれない。プロテオグリカン特有の性質からもたらされる効果も考慮しながら、CSによる軸索ガイダンス効果を細胞培養を用いて検討した。
 伸長中の軸索は、周囲に存在している様々な物質から影響を受けている。細胞培養実験では、条件のわずかな違いがこの影響の差として表れる。検討に用いた実験系について不安定な要素がみられたため、実験条件の調整が大きな課題となった。

[方法]
 培養実験:実験は、基質上に試行する条件を与えたスポットを作って行った。基質は、直径22mmのカバーグラスの上にPoly-D-Lysin, ニトロセルロースをコーティングし、試行条件となる溶液を8μL載せて保湿箱内4℃で一晩静置、この溶液を除去後、さらにラミニンコーティングして作製した。試行条件となる溶液には、CS-GAGまたはCSPGの溶液とスポットの位置を標識するための蛍光色素をPBSによって希釈した。孵卵7日目のニワトリ胚から網膜を剖出し、ニトロセルロース膜上に張り300μm幅の網膜片を切り出した。この網膜片を蛍光実体顕微鏡下で、基質のスポットの両脇に 200〜500μm離して静置し、37℃, 40〜48時間培養した。
 実験条件の検討:蛍光色素、メディウム、ラミニンの基質上への吸着度を実験条件が安定化するよう検討した。
 軸索伸長の定量化:蛍光顕微鏡を用いて観察した。伸展した軸索が基質上のスポットに対して侵入する割合と軸索の展開形態を検討して、Score1〜4までの4段階に分類した。

[結果・考察]
 いくつかの文献で発表されている、確立された方法を用いたが、問題点が明らかになった。スポットの標識に用いる蛍光色素は、この種類と濃度に依存して結果が変化した。培養に用いるメディウムに含まれている要素、特に血清の使用によって実験結果が変化した。蛍光色素は濃度調節によって、それ自身が与える影響を考慮する必要なく標識できることがわかった。CSが与える微妙なガイダンス効果の違いの解析・安定した軸索伸長を得るには、メディウムは、細胞にとって一定の過不足ない栄養条件を与えることができるものが必要であった。また、CS溶液と蛍光色素の組み合わせによって、スポット上へのラミニン吸着に差が生じた。ラミニン吸着に干渉する主たる原因は、蛍光色素中の成分であると考えているが、解決にはいたっていない。
 神経細胞培養時の実験条件を不安定にする要素についてはある程度わかったが、GAG鎖を構成するCS多型のコンテンツの違いによる、軸索ガイダンス効果の違いをみいだすには至っていない。現在は、よりよくCSのガイダンス効果を解析する方法を検討している。


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