つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100736

霞ヶ浦流入河川における有機物の起源とその分解性

今井 清太 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員: 濱 健夫 (筑波大学 生命環境科学研究科)

湖沼における有機炭素の起源は大別して,湖沼内における一次生産者(植物プランクトン)と,流入河川からの流入の2つが挙げられる.また,流入河川においても,その河川水に含まれる有機物は植物プランクトン由来のものと,陸上起源のものの2つがある.また,有機物は分解性の面からも不安定(易分解性)な有機物と安定な物質の2つに大別できる.
有機物の分解性は溶存酸素の消費,生物による利用可能性などといった,物質循環に対して影響を与える要因となる.また,それらのの起源について理解することは,湖沼の物質循環に対する陸起源物質の寄与を評価するために必要な基礎データとなる.
河川から流入した陸起源有機炭素が湖沼中でどのように変化するか,また,湖沼内での炭素循環にどのような影響を与えるかを評価していくために,河川から流入する有機物にはどのようなものがあるか,それらはどのように変化(分解)するかを調べた.

サンプリング地点および方法
霞ヶ浦(西浦)に流入する桜川,新利根川,北浦に流入する大洋川の3河川について5月30日,7月20日,10月22日,12月10日にサンプリングを行なった.それぞれ茨城県内水面水産試験場内の屋外水層に,試水を入れ暗条件とした(黒色ビニールテープを2重に巻いた)ポリカーボネートボトルを投入し,分解実験を行なった.サンプルは分解実験開始後1,3,5,8,15日目に採取した.採取した試水は直ちにガラスフィルター(GF/F,孔径0.7μm)を用いてろ過し,ろ紙はChl. a,懸濁態有機炭素(POC),懸濁態有機窒素(PON),脂肪酸組成の分析に用いた.また,ろ液は溶存態有機炭素(DOC),栄養塩の分析に用いた.いずれも分析まで冷凍保存した.


結果および考察
採水した3河川のうち,桜川,新利根川はPOC/Chl.a比が低い値をとっている(約50)ことから,両河川では植物プランクトンがPOCの主要な構成成分であると考えられる.また,大洋川においてはChl.aはほとんど含まれていないため,植物プランクトン由来のPOCは少ないと考えられる.
分解実験により桜川,新利根川ではPOCの減少傾向が見られた.このPOCの多くを構成している可能性が高い植物プランクトン由来のPOCの易分解性によるものと思われる.夏期には,大洋川でもPOCの減少が見られたが,これは陸生有機物中に易分解性画分が存在することをを示唆する.また,ほぼ1週間でPOCの減少傾向は見られなくなった.
今後,起源を反映している有機物の脂肪酸組成を調べることで,起源についての議論をさらに進める予定である.


©2005 筑波大学生物学類