つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100739

RNA-タンパク質複合体による核小体クロマチン構造の制御

上島 州平 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員: 永田 恭介 (筑波大学・大学院人間総合科学研究科)

<背景と目的>
 真核細胞の核は核膜で覆われており、その内部には、核スペックル、PMLボディ、Cajal ボディなどの核内ドメイン構造が存在する。 核小体は、最も古くから研究されている核内ドメインと言える。 核小体は、直径0.5-5 μmで核内に1-5個存在し、リボソーム生合成の場である。 核小体には、リボソーム遺伝子(rDNA)が繰り返し存在する領域(NOR; nucleolar organizer region)が集約されており、rDNA転写の抑制されているヘテロクロマチン領域と活性化されているユークロマチン領域から成っている。 核小体は分裂期に入ると消失し、分裂期終了後に再構成されるが、これらの機構には不明な点が多い。 また、核小体の構造維持機能についてはまったく明らかではない。 そこで本研究では、核小体の構造制御機構を明らかにすることを目的とした。
 当研究室では、アデノウイルスのクロマチンを使ったDNA複製系を利用し、ウイルスクロマチンの構造変換に関わる核小体リン酸化タンパク質nucleophosmin/B23を同定した。 B23は、試験管内でRNA結合能やRNA分解能を持つほか、ヒストンシャペロン活性を持つことが明らかとなった。 従って、B23は細胞内でrRNAプロセシングや核小体クロマチン制御に関与していることが推測される。 近年、当研究室において、B23がRNA依存的にクロマチンと相互作用していることが明らかにされた。 このことは、rRNAのプロセシング因子は、RNAを介して核小体クロマチンの構造制御に関わる可能性を示唆している。 そこで本研究では、B23、fibrillarin、およびnucleolinといったrRNAプロセシング因子による核小体クロマチン構造の制御機構を解明することとした。

<方法>
 目的タンパク質とクロマチンとの相互作用を検討するために、HAまたはFlagエピトープタグを融合させたB23.1fibrillarinnucleolin、そしてribosomal protein L4を組み込んだプラスミドベクターを構築した。 その後、これらのプラスミドベクターをリン酸カルシウム法により293T細胞に遺伝子導入し、タンパク質を一過的に発現させた。 その後、細胞を回収し、それぞれのタンパク質を抗エピトープタグ抗体を用いて、免疫沈降法により回収した。 次に回収したタンパク質を12.5% SDS-PAGEで展開し、ウエスタンブロッティング法により回収したタンパク質を検出するとともに、抗ヒストン H3抗体を用いてクロマチンの共沈を検討した。 次に、その相互作用がRNA依存的であるかを検討するために、細胞抽出液をRNase Aで37oC、15分間処理した後、同様の実験を行った。

<結果と考察>
 最初に、rRNAプロセシング因子の細胞内におけるクロマチンとの相互作用について検討し、ついでその相互作用におけるRNAの役割についての解析を試みた。 免疫沈降法を用いて検討した結果、B23.1、fibrillarin、nucleolin、加えてribosomal protein L4は、クロマチンと相互作用していることが明らかとなった。 また、RNase A処理を行った細胞抽出液を用いて同様の実験を行うと、これらの相互作用は消失した。 以上のことから、rRNAプロセシング因子およびribosomal protein L4はクロマチンに結合し、この結合はRNA依存的であることが明らかとなった。 現在、クロマチン免疫沈降法(ChIP法)を用いて、これらの因子が結合しているDNA領域の同定を試みている。 あわせて、ChIP法を用いてヒストンの修飾状態を検討することで、rRNAプロセシング因子が相互作用しているクロマチン構造の特異性について明らかにする予定である。 さらに、rRNAプロセシング因子の核小体クロマチン構造変換への関与を検討するために、B23、fibrillarin、あるいはnucleolinの発現をノックダウンして、核小体クロマチン構造の変化を検討する予定である。 これらの実験によって、rRNAプロセシング因子を含む、RNA-タンパク質複合体による、新たな核小体クロマチン構造制御機構が明らかになるものと考えている。
 細胞核をRNA分解酵素で処理すると、ヘテロクロマチン構造が崩壊し、ついには核が崩壊することが報告されている。 これらのことは、RNAが核構造の維持に関与している可能性を示している。 従って、RNA-タンパク質複合体による核小体クロマチン構造制御機構の解明は、核構築の機構を研究する上で非常に意義深いものである。


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