つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100740

古細菌Thermococcusの細胞表層構造の研究

小木 統子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員: 桑原 朋彦 (筑波大学 生命環境科学研究科)

導入と目的
   1983年,BarossとDemingによって最初の深海熱水噴出孔が発見されて以来,種々の好熱性・超好熱性菌が海底熱水系から単離され,研究が行われてきた。 当研究室では水曜海山の海底熱水系から得た同一の熱水サンプルから2種の微生物を単離した。 16S rRNA遺伝子配列を調べたところ,これらはいずれもEuryarchaeotaThermococcus属に分類される古細菌であり,それぞれTS1,TS2と名付けられた。
   2菌の生理的性情は異なり,TS1はDNA-intercalating色素存在下で室温で細胞融合したが,TS2では既報のThermococcus spp.と同様に細胞融合は観察されなかった。 そこで,本研究では細胞融合と細胞表層構造の関係を明らかにする第一歩として,TS2の細胞表層構造をすでに報告されているTS1のそれと比較することを目的とした。

 

材料と方法
   JCM medium 280* を基本とした各種培地に106 cells/mlになるようにTS2を植菌し,30分ごとにカウンティングして増殖特性(炭素源,至適pH,至適温度,および至適塩濃度)を調べた。 JCM medium 280中で80℃で18 h培養した後,グルタールアルデヒドとオスミウム酸による二重固定を施し,酢酸ウランおよびクエン酸鉛染色液で染色して,透過型電子顕微鏡(TEM)により細胞表層構造の観察を行った。

 

結果と考察
   TS2はYeast extractまたはTryptoneを炭素源として増殖し(Table 2),至適pH 7.0,至適温度80℃,至適塩濃度3.0%であった(Fig.1 and table 1)。 以前に観察されたTS1のcell envelope厚さ4 nmであったのに対し,TS2のcell envelopeは厚さ10 nmと比較的薄いもののelectron-denseであった。 このことから,細胞融合にcell envelopeの組成/密度が関係する可能性が示唆される。


Fig. 1 Effects of tempereture (a), pH (b), and NaCl concentration (c) on growth of Thermococcus sp. TS2.

Table 1 Optimum temperature, pH, and NaCl concentration.

Table 2 Growth substrate of Thermococcus sp. TS2. 80℃, 4.5 h cultured. Each growth substrates were 0.2 % final concentration. (*final concentration 0.1% glutamine and tryptophan, and 0.67 % asparagine were added) (**cellobiose was 0.1 %)

 

今後の予定
   今後はすべてのThermococcus spp.のTEM観察を行い,細胞融合と細胞表層構造の関係をより深く考察していく予定である。

(*http://www.jcm.riken.jp/cgi-bin/jcm/jcm_grmd?GRMD=280&MD_NAME=)


©2005 筑波大学生物学類