つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100746

塩類耐性を有するSesbania rostrataにおけるNa+の体内挙動の解析

亀ヶ谷 敬一 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員: 松本 宏 (筑波大学 生命環境科学研究科)

多くの植物は高濃度のNaClによって枯死する(NaCl感受性)。しかし、枯死することなく生育するものもあり、Sesbania rostrataはその一である(NaCl耐性)。このS. rostrataのNaCl耐性の発現要因を明らかにするためにまず、Na+が植物体内でどのように挙動しているのかを調べた。

材料及び方法

  • Sesbania rostrata Brem. & Oberm. (NaCl耐性)
  • インゲン Phaseolus vulgaris L. cv. Meal (NaCl感受性)

両種ともマメ科植物の一年生草本である。

バーミキュライトで初生葉の展開まで育てた幼植物を、1/2強度の春日井水耕液で水耕栽培した。S. rostrataは第3本葉、インゲンは初生葉がそれぞれ展開した段階で、塩処理を行なった。

塩処理は、20、100、150mMになるようにNaClを加えて2週間行なった。対照区はNaClを加えずに同様に生育させた。なお、100、150mM処理区は2日ごとに増塩することで、塩濃度の急上昇によるストレスを緩和した。

  • NaCl耐性の検定:塩処理後に害徴の観察と、新鮮重測定と乾燥重測定を部位別に行った。
  • Na+挙動の解析法:金属量を測定できるICP(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometer、プラズマ発光分光分析装置)を用いて、部位別にNa+量を測定した。

Na+量の測定は、乾燥試料0.1gを1.4mM HNO3で1晩湿式灰化し、残渣を蒸留水0.5lに溶かしてICPで測定した。

結果

NaClの処理によってインゲンでもS. rostrataでも、下位の葉から壊死が起こった。100mM処理区では、インゲンではこの壊死が茎葉部・全体に拡大して枯死してしまったが、S. rostrataでは茎葉部に拡大することはなく、枯死しなかった(Fig. 1)。

NaCl耐性植物S. rostrataでのNa+の分布:植物体全体のNa+平均濃度は、対照区では0.88 mmol/g d.w.、100mMでは6.5 mmol/g d.w.であった。100mM処理区では植物体全体に高濃度のNa+が含まれていた (Fig. 2)。

考察

S. rostrataで壊死が全体に拡大しないのはなぜだろうか。

100mM処理区で上位の葉が高濃度のNa+を含むにも関わらず壊死しないのは、S. rostrataの上位の葉細胞に、高濃度のNa+に耐えるメカニズムがあるからだと考えられる。また、最初に切り捨てられる最下位の葉にNa+が多く含まれるという結果は、Na+を最下位の葉に集積・落葉して排出し、他の組織の生存を図るメカニズムの存在を示唆する。

Fig. 1. S. rostrata (a)とインゲン (b) の100mM NaCl処理後14日目の写真。Fig. 2. S. rostrata Na+分布。対照区(白抜き)と100mM NaCl処理区(黒塗り)を示した。100mM処理区の初生葉は落葉したため測定せず。

©2005 筑波大学生物学類