つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100754

自閉症モデルラットの脳内モノアミン動態―マイクロダイアリシスを用いた解析―

小林 優太(筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:成田 正明(筑波大学大学院人間総合科学研究科)

<導入と目的>
自閉症は、社会的相互関係の異常、コミュニケーションの異常、反復的行動の3つの特徴的臨床的症候から診断される疾患である。自閉症の原因は未だ不明だが、これまでの研究から胎生期における中枢神経系の発生発達異常、中でも神経伝達物質セロトニン系の異常が示唆されている。しかしその詳細は分かっておらず、モデル動物の開発が必要とされてきていた。そこでサリドマイドあるいはバルプロ酸ナトリウム服用妊婦から生まれた子には自閉症発症率が高いという疫学的事実に着目し、これを元に本研究室では自閉症モデルラットを作成した。これまでの研究から自閉症モデルラットでは、海馬セロトニンの上昇、前頭葉皮質ドーパミンの上昇、及び血中セロトニンの上昇が認められている。特にこの血中セロトニンの上昇は一部のヒト自閉症でも認められるもので興味深い。しかし、このセロトニンの上昇はホモジェナイズサンプルで見られるもので(ホモジェナイズサンプルは細胞外モノアミンと細胞内モノアミンを区別していない)、活性型である細胞外セロトニンがどうなっているのかは不明である。そこで自閉症モデルラットでの細胞外、即ち活性型モノアミン動態を、脳内にプローブを挿入しマイクロダイアリシス法を用いて調べることとした。また、一部の自閉症患者の病態改善に奏功することが知られているSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害剤)投与によるモノアミン動態の変化も検討した。



<方法>
Wistar系成熟ラット(雄)を麻酔下脳固定器に固定し、右側の線条体に微少透析プローブを挿入しデンタルセメントで固定。二日間安定の後リンゲル液を流速1μl/minで灌流し、その灌流液のモノアミンを5分ごとにHPLC-ECD法で定量した。SSRIは灌流液に溶解し、透析膜を介した逆透析によって1時間線条体に灌流投与した。

<結果と考察>
対照群と比べて自閉症モデルラット群では細胞外セロトニン濃度が低下する傾向が見られた(下図)。この細胞外セロトニン濃度の低下はヒト自閉症の病態から予測されるもので、この結果はセロトニン系の自閉症のへの関与を支持するものである。また、SSRIの線条体への直接投与は顕著に細胞外セロトニン濃度を上昇させた。しかしこの上昇の程度は対照群と自閉症モデルラット群の間で大きな差は見られなかった。セロトニントランスポーターの働きを阻害するSSRIによる細胞外セロトニン濃度の上昇に両群間で差が見られないということは、両群間でのセロトニントランスポーター数に差が無いと言うことを示している。即ち、自閉症モデルラットで見られた細胞外セロトニン濃度の低下はセロトニントランスポーターによるものではないことが示唆される。今後はセロトニン放出を抑制するとされる、セロトニン1Aオートレセプターや、セロトニン1B/1Dオートレセプターの自閉症モデルラットにおける変化の検討が必要とされる。


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