つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100759

ブロッコリー根導管液に含まれるアラビノガラクタンペプチドの解析

佐川 啓子(筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:佐藤 忍(筑波大学 生命環境科学研究科)

【背景・目的】
高等植物の根は、生合成した様々な有機物質を導管流に乗せて地上部器官へ輸送し、 個体の発生・分化や機能調節に関与していると考えられる。これまでの研究で、 根由来のブロッコリー導管液中には、アラビノガラクタンプロテイン(AGP)が含まれている ことが確認されており、根から導管液を介して相当量のAGPが地上部に供給されていることが示された。 AGPは、植物に広く存在するプロテオグリカンの一種であり、その機能として、植物細胞の管状要素等 への分化、発達、細胞間相互作用への関与が示されているが、未だ不明な点が多い。 この様な機能を持つAGPが根で合成され、導管液中を地上部へ向かって流れているとすると、 その生理的な働きに興味が持たれる。また、植物分子生物学のモデル植物であるシロイヌナズナゲノム中 には、現在までに30種類のAGP遺伝子が確認されている。シロイヌナズナと同科である ブロッコリーのAGP(Brassica oleracea:BoAGP)は、以前の研究で得られたアミノ酸配列 からペプチド型AGP(AG-peptide)と相同であることが明らかとなった。AtAGP-aおよび、 その重複遺伝子であるAtAGP-bは根での発現が確認されている。そこで、本研究では、根で特異的に 生産されるAG-peptideであるAtAGP-a, AtAGP-bおよびBoAGPに注目し、その働きを解明することを目的としている。

【方法】
○ 導管液AGPのアミノ酸配列の決定
 播種後約2ヶ月のブロッコリーの茎を切除し、その断面から導管液を採取した。それらを凍結乾燥させ80%EtOH処理(不溶)、CDTA抽出、透析を行い、AGP特異的染色試薬であるヤリブ試薬を用いて、精製したAGPのアミノ酸配列の決定を試みた。
また、トマトにおいても導管液採種が可能であることが判明し、ブロッコリー導管液と同様にトマト導管液をヤリブ試薬処理し、AGPの存在の確認を行った。
○AtAGP-aの動態調査
・ AtAGP-aの翻訳後の動向を調査するため、AtAGP-a(GPIアンカー無し)にGFPを連結したコンストラクトの作製を行った。そのコンストラクトを導入したアグロバクテリウムを用いて、形質転換シロイヌナズナを作製した。
○AG-peptide(AtAGP-a,AtAGP-b)の機能解析
・ AtAGP-aにT-DNAが挿入されたAtAGP-a欠損変異株を得るため、SALK研究所から取り寄せたシロイヌナズナAGP-a T-DNA挿入変異株の種子(T1世代)を、カナマイシンを含むMS培地に播種しスクリーニングを行った。その後PCRを行いヘテロ、ホモ系統の確認を行い、AtAGP-aの機能抑制されたホモ系統の植物体の獲得を試みた。
・ シロイヌナズナAGP-b T-DNA挿入変異株は、まだSALK研究所も含めデータベース上に存在していないため、AtAGP-a欠損変異株に対してRNAiを用いてAtAGP-b(GPIアンカー無し)の発現抑制を行い、導管液AGPの候補であるAGP-a,bの両方の遺伝子機能が抑制されたシロイヌナズナの作成を試みた。

【結果】
○ 導管液AGPのアミノ酸配列決定
 ヤリブ試薬によって生じた沈殿物がAGPを含むことから、ブロッコリー導管液のヤリブ沈殿物からヤリブ試薬を洗浄し凍結乾燥を行った。しかし、すでに決定されている以上にアミノ酸配列を読むための必要量に達しなかった。今後さらに導管液を採取し、精製されたAGPの凍結乾燥サンプルを多量に収集し、配列を決定していきたい。
 また、トマト導管液においてヤリブ試薬処理をした結果、紫色に染まった沈殿物が生じたためAGPの存在が確認された。しかし、ブロッコリー導管液AGPと比較すると、含まれる濃度が低いことが視覚的に予測された。以降の解析を進めるために、より多くのトマト導管液AGPの精製を行う予定である。
○AtAGP-aの動態調査
 AtAGP-aを含むGATEWAYエントリークローン(Km耐性)を、PCRクローニングにより作製した。それを用いて、GFPを有するデスティネーションベクター(Km耐性とハイグロマイシン耐性)とのクロナーゼ反応をし、AtAGP-a:GFPコンストラクト作製を行った。
結果、KmとHygの両耐性を持ち、AtAGP-aの存在がPCRによって確認されたクローンを得た。現在制限酵素マップによる確認を行っている。
○AG-peptide(AtAGP-a,b)の機能解析
・ AtAGP-a T-DNA挿入変異株を得るためにスクリーニングを行った。約500の種子から、Km耐性を有する植物体を8個体獲得した。その後、それらのゲノムをテンプレートにしT-DNA挿入確認のためのPCRを行った。現在、このPCRによる選抜が難航しているため、まだホモ系統の獲得はできていない。今後、ホモ系統の表現型について詳しく解析する予定である。
・ AtAGP-b(GPIアンカー無し)を含むGATEWAYエントリークローン(ゼオシン耐性)を作成中である。今後RNAi用のデスティネーションベクター(Km耐性)とクロナーゼ処理をし、AtAGP-bがセンス鎖、アンチセンス鎖で含まれるRNAiコンストラクトを作製し、そのコンストラクトを導入したアグロバクテリウムを用いて、AtAGP-aT-DNA挿入変異株に対する形質転換シロイヌナズナを作製する予定である。
 このAGP-aが欠損し、AGP-bを抑制したシロイヌナズナの表現型を詳しく解析することにより、根導管液中AG-peptideの機能解明につながると考えられる。

     


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