つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100769

カリヤコマユバチにおける加害植物揮発性成分(HIPV)に対する誘引性

滝口 玄太 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員:戒能 洋一 (筑波大学 農林学系)

《背景・目的》
 自然界において、植食性昆虫を寄主とする寄生蜂や寄生バエの多くは、寄主由来の物質や寄主加害植物由来の物質を利用している。 カリヤコマユバチ(Cotesia kariyai)は、イネ科植物を食草とするアワヨトウ(Mythimna separata)にのみ寄生する捕食寄生性昆虫である。 本種は、アワヨトウに加害されたトウモロコシ葉由来の加害植物揮発性成分(HIPV)を寄主探索に利用していることがわかっている。 本研究では、カリヤコマユバチの雌の加害植物に対する誘引性と、その卵巣成熟度及び産卵衝動との関連性を調査するために実験を行った。

《材料・方法》
 カリヤコマユバチとアワヨトウは、25℃、60%r.h.、明暗周期16L:8D条件下で飼育及び実験を行った。
 ・加害植物に対する誘引性
  高さ30〜40cmのトウモロコシをアワヨトウの2齢幼虫20匹に24時間加害させたものを、加害トウモロコシとした。 その後、加害植物に対する誘引率を、カリヤコマユバチの羽化後経過日数ごとに調べた。 実験には風洞(風速:20〜30cm/s)を用い、加害/未加害トウモロコシの鉢の60cm風下に設置した台からカリヤコマユバチを放して観察した。
 ・卵巣成熟度
  カリヤコマユバチを解剖して実体顕微鏡で観察を行い、卵巣の成熟度を5段階に分けて羽化後日数ごとの卵巣成熟度を数値化した。
 ・産卵衝動
  カリヤコマユバチは、アワヨトウの糞や体表に含まれるカイロモンを触角で感知することが知られており、触角がアワヨトウの体表に触れるとすぐさま産卵行動に移行する。 この一連の行動を、直径9cmのシャーレに5齢アワヨトウと各羽化後日数のカリヤコマユバチを1匹ずつ入れて観察し、その移行率を求めた。

《結果・考察》
 卵巣は羽化後1〜2日で成熟し、それ以降の顕著な変化は見られなかった。また産卵衝動も羽化2日後に著しく上昇している。 このことから、卵巣成熟が引き金となって産卵衝動が起こる事が示唆される。
 一方、両者をカリヤコマユバチの加害植物に対する誘引性と比較すると、誘引のほうが若干早いタイミングで起るというタイムラグが見られる。 これは野外において、カリヤコマユバチが羽化後すぐに寄主であるアワヨトウの生息場所に接近する可能性を示唆している。 このことから、カリヤコマユバチは寄主生息場所探索を少しでも早く開始することで、寄主探索効率を高めていると考えられる。


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