つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100773

テトラヒメナのミトコンドリア膜電位に及ぼすカテキン類の影響

田中 梢子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員: 沼田 治 (筑波大学 生命環境科学研究科)

目的
 近年の健康志向の高まりにより、様々な効能・機能を持つお茶、即ち緑茶は世界中から注目を集めている 。中でも茶ポリフェノールの一種であるカテキン類(お茶の渋み成分)は、お茶の持つ有効成分の代表格と見られ、抗酸化作用、抗腫瘍作用、血圧・コレステロール上昇抑制作用など多くの有効生理作用が報告されている。
 当研究室では既にウーロン茶の疎水性分画がミトコンドリア膜電位を上昇させるという報告をしている。これはウーロン茶ポリフェノールによる影響であるが、ウーロン茶の疎水性分画には少量のカテキン類やカフェインも含まれている。単体カテキン類(カテキン・エピカテキン・ガロカテキン・エピガロカテキン・カテキンガレート・エピカテキンガレート・ガロカテキンガレート・エピガロカテキンガレート)及びカフェインとウーロン茶疎水性分画のミトコンドリア膜電位上昇活性を比較すると、ウーロン茶疎水性分画の方が強い活性を持つことがわかっている。実際にはお茶の中のカテキン類、カフェインは混合した状態で存在しているので、カテキン類、カフェインそれぞれの活性はウーロン茶疎水性分画より低くても、複数のカテキン類、カフェインを混合した状態では相乗効果が現れて、ウーロン茶疎水性分画より高い活性を持つ可能性が考えられた。よって、本研究では、様々な生理作用が報告されているカフェインと単体カテキン類を混合し、ミトコンドリア膜電位への影響を調べた。また混合カテキン類が単体カテキンと比べてどの程度ミトコンドリア膜電位を上昇させるのかを調べるため、組み合わせを変えて複数のカテキン類を混合し、ミトコンドリア膜電位への影響を調べた。更に、ミトコンドリア膜電位上昇に対する単体カテキン類の濃度依存性についても調べた。

材料と方法
実験では、カテキン(C)・エピカテキン(EC)・ガロカテキン(GC)・エピガロカテキン(EGC)・カテキンガレート(CG)・エピカテキンガレート(ECG)・ガロカテキンガレート(GCG)・エピガロカテキンガレート(EGCG)の8種類のカテキン類と、同じくお茶に含まれる代表的な成分であるカフェインを使用した。
各カテキン類とカフェインは、5%ジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒としてテトラヒメナに添加した。コントロールとして5%DMSOを細胞に添加したものを用いた。

1. カテキン類を、細胞に添加した際の濃度を0.01、0.02、0.03、0.05、0.1mg/mlになるようにしてテトラヒメナに加え、ミトコンドリア膜電位依存的に強い蛍光光度を示す染色剤Rhodamine123を用いてミトコンドリア膜電位を計測し、コントロールと比較した。蛍光光度はマルチマイクロプレートリーダーを用いて測定した。また顕微鏡でミトコンドリアの蛍光を観察した。この実験では、先行研究の結果から比較的高い膜電位上昇効果を持つCG・ECG・GCG・EGCGの4種類とカフェインについて調べた。

2. 単体カテキン類とカフェインを色々な組み合わせで混合したサンプルをテトラヒメナに加え、1と同様にRhodamine123を用いてミトコンドリア膜電位を計測した。各カテキン類の濃度は、細胞添加時に0.1mg/mlとなるよう調整した

結果
1. 膜電位上昇効果の強弱に関わらず、添加したカテキン類の濃度依存的に膜電位が上昇した。カテキン類の0.01mg/ml添加時の膜電位はコントロールの1.5倍から4倍程度であった。0.1mg/ml添加時には約5倍から12倍に上昇した。ただしカフェインでは0.01から0.05mg/mlにおいて膜電位がコントロールを下回り(0.1から0.7倍)、0.1mg/mlではコントロールと同程度の膜電位を示した。

2. 単体カテキン類とカフェインを混合したサンプルを加えた時のミトコンドリア膜電位を、先行研究より得られた単体カテキン類のみを加えた時のミトコンドリア膜電位と比較すると、ほぼ同程度の活性効果を示した。

考察
 カテキン類がテトラヒメナのミトコンドリア膜電位を濃度依存的に上昇させたことで、これらがエネルギー代謝系活性化に関わる生理活性物質であることが裏付けられた。一方カフェインはどの濃度においてもコントロールを下回るか同等の活性効果しか見せなかった。このことからカフェインがテトラヒメナのミトコンドリア膜電位を抑制することが示唆されたが、0.1mg/mlにおける抑制効果は見られなかった。よって更に実験回数を重ね、カフェインがミトコンドリア膜電位の抑制効果を示すか検討する必要がある。
 単体カテキン類とカフェインを加えた時のミトコンドリア膜電位は、単体カテキン類のみを加えた時の活性効果とほぼ同じなので、0.1mg/mlにおいてカフェインは特に抑制効果を持たないと考えられる。しかし結果1より、カフェイン単独では0.01〜0.05mg/mlにおいて抑制効果が見られるため、今後カフェインの濃度を低くしてカテキン類と組み合わせ、抑制効果の有無を調べる必要がある。


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