つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100775

らん藻由来毒素の微生物による分解

土井 嘉亮 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員: 小林 達彦 (筑波大学 生命環境科学研究科)

【背景・目的】
 経済の発展に伴い、生活排水、工業廃水、農業排水等から多量の窒素やリンが各地の水域に流入し、その結果として湖沼等の富栄養化が問題になってきている。水域の富栄養化が引き起こす問題の一つとして、アオコの発生が挙げられる。アオコとは、らん藻類の異常増殖により湖面が緑色を呈する現象をさすが、このアオコの発生により、水域景観の悪化、悪臭の発生、魚類の死滅など様々な問題が生じている。そればかりか、らん藻類の中には、我々哺乳類に致死的な影響を与える毒素を産生する種が存在することから、それら毒素による被害が問題になっている。これらの毒素によりヒトや家畜が死亡することもあり、アオコが発生している湖沼や、飲料水用浄水からこれらの毒素を効率的に除去する手法が求められている。
 また、これら毒素の産生機構に関しては近年に明らかになりつつあるものの、毒素の分解、消滅に関する研究例は少なく、分解のメカニズムは明らかにされていないのが現状である。
 このような背景から、自然水域や浄水処理システムにおけるらん藻類由来毒素への対策を講じる上で、これら毒素の分解メカニズムを明らかにすることが求められている。そこで本研究では、これら毒素を分解する微生物の毒素分解機構の解明を行うことを目的とした。

【実験内容・結果】
1)らん藻由来毒素分解菌の培養条件の検討
 既に共同研究者により、らん藻由来毒素を分解する菌株が取得されている。しかしながら、培養条件を含め、菌学的諸性質の解析は十分になされていなかった。そこで、培地成分等の検討を行った。その結果、定常期の菌体密度に関して、OD600 = 約0.25から約1.00と、およそ4倍高めることに成功した。また、固形培地での培養時間を飛躍的に短くすることに成功した。

2)らん藻由来毒素の分解に関与する遺伝子の探索
 既に他の研究グループにより、近縁種において毒素の分解に関与しているとされる一連の遺伝子群の報告がなされている。しかし、本菌株では、分解初発に関与していると考えられる一つの遺伝子の部分配列が報告されているのみで、遺伝子群の有無やその塩基配列に関しては全く未知であった。そこで、上記の遺伝子情報等を基に、本菌株における毒素分解酵素遺伝子のクローン化を試みた。

【今後の予定】
 現在、らん藻由来毒素分解関連遺伝子群の解析を進めている。今後、これらの遺伝子産物を発現させ、それらの酵素の諸性質やその酵素が関与する反応経路を明らかにしていく予定である。


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