つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4:
TJB200501200100779
テレメトリーによる高血圧NZOマウスの解析
西原 絵理(筑波大学 生物学類 4年) 指導教員:
八神 健一、杉山 文博(筑波大学大学院 人間総合科学研究科)
【背景・目的】
ヒト高血圧の9割は原因不明の本態性高血圧である。その原因は環境因子と遺伝因子が作用する多因
子疾患であり、それら複数の遺伝子、または遺伝子と環境間の相互作用によって高血圧が生じると考え
られている。しかしながら、ヒト本態性高血圧症の原因遺伝子は同定されていない。従来、高血圧自然
発症ラットを用い原因遺伝子探索は行われていたが、マウスでの研究は十分でない。そこで我々の研究室
ではマウス高血圧遺伝子を同定するため、最初の作業として現在までに18系統の近交系マウスの血圧
値を検討してきた。検査した近交系マウスの内、最も高い収縮期血圧を示した系統はNew Zealand
Obesity Mouse (NZO)であった。非観血式血圧測定において132.4±3.1mmHgを示した(C57BL/6J
マウスは114.6±5.3mmHg)。NZOマウスは肥満やインスリン抵抗性を伴うU型糖尿病を呈することが知
られており、その形質に高血圧症が加わり、ヒトのメタボリック・シンドロームと類似し、肥満に伴う高血圧発
症を支配している遺伝子の解析のためにNZOマウスが有用であることが明らかとなってきた。しかしながら、
NZOの血圧は非観血式な方法にて測定されたものであり、一日のうち特定な時間に、しかも拘束された
状態にて得られた表現型である。そこで、詳細な血圧形質を理解するため、無拘束な状態にて遠隔操
作により長時間血圧がモニター可能なテレメトリー血圧解析システムにてNZOマウスの血圧動態を解析す
ることを本研究の目的とした。
【方法】
実験に使用したマウスは成熟したオスのNZOマウスおよび対照群としてC57BL/6Jマウスを用いた。両マウ
スとも生命科学動物資源センターにて飼育、実験された。遠隔操作用の圧増幅器をマウスに装着する
ため、吸入麻酔後マウス頚部を切開し左頚動脈を露出させた。頚動脈の血流は縫合糸にて止め、血管
を約100μm切開した。そして圧増幅器のカテーテル部を血管に挿入し、頚動脈基部まで導入し固定した。
覚醒後、マウスケージに収容し、翌日より血圧のモニターを解析した。データはNZOマウスにおいて4匹、
C57BL/6Jマウスおいて2匹(現在2匹追加し実験を行っている)より得られた。採取した測定項目は収縮
期血圧(SBP)、平均血圧(MBP)、拡張期血圧(DBP)、パルス圧(PP)、心拍数(HR)、運動量(Activity)
である。血圧形質の解析は術後早期における血圧、術後7日以降における血圧、高食塩負荷における
血圧について24時間連続でモニターした。また、精神的なストレスがNZOマウス血圧にどの様に影響をお
よぼすか、居住-侵入者試験および居住転移試験を実施した。
NZOマウスより採取した24時間データの平均は、収縮期血圧において153.5mmHg、平均血圧で
132.6mmHg、拡張期血圧で111.7mmHgであり、C57BL/6Jより得られた各項目よりいずれもNZOマウスの値は有意に高値を示した。この結果は非観血式血圧測定での結果をサポートするものであった。
心拍数はNZOとC57BL/6Jとの間に大きな相違は見られなかった。興味深いことに、NZOマウスの運動活
性はC57BL/6Jマウスと比較し低下していた。現在、血圧の日内変動、食塩負荷時における血圧動態、
ストレス負荷時における血圧動態を解析中であり、これらデータを併せ報告する予定である。
48時間連続測定した各系統での平均値
©2005 筑波大学生物学類
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