つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100783

新規神経ペプチドマンセリンの機能解析−ヒト疾患との関連

野口 大輔 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員: 成田 正明 (筑波大学 人間総合科学研究科)

《導入・目的》
 SecretograninⅡ(SgⅡ)はChromogranin familyに属し、別名Chromogranin Cとも呼ばれている分泌顆粒タンパク質である。SgⅡからはいくつかの神経ペプチドが切り出されることが知られており、これまでに、視床下部の正中隆起に高濃度で存在し神経内分泌やドーパミン神経系に関与することが知られているsecretoneurinや、ラットの下垂体前葉と副腎髄質において認められ副腎のホルモン制御と悪性疾患との関わりが報告されているEM66などが報告されている。我々の研究室ではこれまでの研究でSgⅡから切り出した新規の40残基のペプチドの存在を調べ、これをmanserinと命名した。ラット脳においてmanserinは下垂体前葉に特異的に存在しているほか、視床下部の正中隆起、弓状核の神経細胞と神経線維で観察され、これはmanserinが下垂体前葉系のホルモンのコントロールに関与していることを示唆している(NeuroReport 2004; 15:1755-1759)。
 今回の研究ではmanserin peptideの中枢神経系以外の組織における局在について調べることを目的とした。

《材料・方法》
 本研究では生後6週間のWister ratから摘出した副腎及び十二指腸標本を用い、これをパラフィンで包埋してから切片を作成した。方法として材料から切り出した切片に対してmanserin抗体を用いた免疫組織化学染色を行った。
 まず切片を脱パラフィン化した後に、0.3%過酸化水素メタノール溶液に入れ室温で20分培養した。次に5%正常ヤギ血清in 0.1%Triton-X/PBS(T-PBS)を用いて室温下で1時間ブロッキングをおこなった。一次抗体としてはウサギから作った抗manserin抗体をT-PBSで10000倍希釈したものを用い、4℃で12時間以上培養した。二次抗体にはヤギから作ったビオチン化抗ウサギ抗体をT-PBSで500倍希釈して使用し、室温で1時間培養した。免疫反応の検出にはABC kit(Vector Laboratories製)を使用し、発色剤には0.02% 3,3’-ジアミノベンジン、0.06%硫酸ニッケル(Ⅱ)六水和物、0.005%過酸化水素の混合物を用いた(PBSを溶媒に使用)。

《結果・考察》
 中枢神経系以外では、manserin peptideは副腎に局在を認めた。
 これまでの研究でmanserin peptideは視床下部の弓状核、下垂体前葉のACTH分泌細胞以外の細胞に局在していることがわかっている。今回新たに副腎に局在を認めた。このことは室傍核―下垂体前葉ACTH分泌細胞―副腎皮質を介するHPA axisと異なったストレス反応系が存在する可能性がある(下図)。
 また十二指腸においてはmanserinは絨毛上皮細胞の内腔側上部の核内に局在し、TUNEL陽性のアポトーシス細胞にのみ限局していた。このことはmanserin peptideが発癌機構にも関与している可能性があることを示唆する。現在ヒトの腫瘍組織標本を用いて同様に解析を行い、manserinのヒトにおける局在と明確な機能を検討しているところである。





図:古典的ストレス反応系であるCRH/ACTH/コルチゾール系と"manserin系"の仮説経路の比較


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