つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100789

マウスDNAM-1(CD226)の機能解明を目的とした抗マウスDNAM-1モノクローナル抗体の作製

原 亜弓 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員: 渋谷 彰 (筑波大学 人間総合科学研究科)

【背景】
 生体は外来病原体や腫瘍に対してその恒常性を維持するために免疫応答を起こすが、それには免疫細胞の外からの刺激が必要であり、その多くは細胞表面の受容体を介して伝えられる。これら受容体のうち接着分子は細胞と細胞を接着する機能を持ち、またエフェクター細胞に活性化シグナルを伝えてその機能発現に重要な役割を担う。DNAM-1は免疫グロブリンスーパーファミリーに属する接着分子で、癌細胞やウイルス感染細胞を直接殺す作用を持つCD8陽性T細胞やNK細胞などに特に強く発現しており、腫瘍細胞株などに発現しているリガンドを認識して接着し、標的腫瘍細胞の細胞傷害誘導に重要な役割を担うことがヒトの系において明らかにされている。この時、DNAM-1はポリオウイルスレセプターであるCD155およびポリオウイルスレセプターファミリーに属するCD112をリガンドとして認識して機能する。DNAM-1の生体における機能を解明するためには、マウスin vivoの系を用いてより詳細に解析することが必須であることから、本研究ではマウスDNAM-1 (mDNAM-1)の機能解析において必須のツールである抗mDNAM-1モノクローナル抗体を作製することを試みた。

【目的】
 マウスin vivoの系においてmDNAM-1とそのリガンドの結合を阻害した時に起こる免疫応答を解析するため、生体に投与してもmDNAM-1陽性細胞を除去せず、mDNAM-1リガンドへの結合を阻害する抗mDNAM-1モノクローナル抗体を樹立する。また、マウスの血球細胞におけるmDNAM-1の発現局在と機能を明らかにするため、得られた抗体を用いてmDNAM-1を発現している細胞を刺激し、膜蛋白の発現の変化やサイトカイン産生などについて検討する。

【方法】
 Flagタグ標識したmDNAM-1トランスフェクタント(Flag-mDNAM-1/BW)をラットのfoot padに1匹あたり107細胞皮下注射した。免疫後30日目にmDNAM-1の細胞外領域とヒトIgG1Fc領域を融合したキメラ蛋白 (mDNAM1-Fc) 100μgを同様に追加免疫した。免疫後3日目に膝窩リンパ節を採取し、リンパ球とミエローマ細胞 (SP2/0) を融合してハイブリドーマを作製し、HAT含有メチルセルロース培地を用いてDNA生合成経路の違いを利用した選択を行った。10〜14日後、肉眼で観察できるハイブリドーマのコロニーを拾い、液体培地で培養した。ハイブリドーマ細胞の培養上清中に含まれる抗体をmDNAM-1トランスフェクタント (Flag-mDNAM-1/BaF3)を用いてFlow cytometry法によりmDNAM-1を特異的に認識する抗体産生ハイブリドーマを選択した。次にmDNAM1-FcとmDNAM-1リガンドを発現しているトランスフェクタント(マウスCD155/RMAまたはマウスCD112/RMA)の結合を抗mDNAM-1抗体あるいはコントロール抗体存在下で行い、それぞれについてFlow cytometry法により解析し、mDNAM1-Fcのリガンドへの結合を阻害する抗体を選択した。さらにこれらのハイブリドーマのうち、特に抗体産生能および増殖能が高いクローン (#8) の精製抗体を作製してマウス腹腔内に投与し、7日後の脾臓におけるmDNAM-1陽性細胞 (CD3陽性T細胞およびNK細胞) の陽性率の変化をFlow cytometry法により解析し、mDNAM-1陽性細胞を除去しないことを確認した。

【結果・考察】
 抗mDNAM-1抗体を産生するハイブリドーマは、106クローン解析して27クローン (25.4%)陽性という高頻度で得た。これは、mDNAM1-Fc蛋白を用いた追加免疫法、およびメチルセルロース培地を用いた選択法に起因するものと推察される。得られた27クローンの抗体のうち、マウスCD112とmDNAM1-Fcの結合を阻害する抗体が8クローン得られたのに対して、マウスCD155とmDNAM1-Fcの結合を阻害する抗体は得られなかった。これはmDNAM-1とそれぞれのリガンドの結合の親和性または結合部位の違いによるものと推察される。ヒトの系では、CD155の方がCD112と比較してDNAM-1に強く結合することから、ハイブリドーマ培養上清を用いた本実験系では、マウスCD155とmDNAM1-Fcの結合を阻害するのには不充分な抗体価であったと推察される。今後、精製抗体を用いたin vitroのアッセイ系にて検討する。また、得られた8クローンのブロッキング抗体のうち1クローン (#8)をマウス腹腔に投与しても、CD3陽性T細胞およびNK細胞を除去しないことを確認した。以上より、mDNAM-1リガンドへの結合を阻害し、かつ生体内でmDNAM-1陽性細胞を除去しない抗体を産生するクローン (#8)をTX42とし、TX42を用いることでmDNAM-1とmDNAM-1リガンドとの相互作用をin vivoで解析することが可能であることを示した。
 次に、TX42を用いてマウス血球細胞におけるDNAM-1の発現を検討したところ、CD4陽性およびCD8陽性T細胞の90%以上、NK細胞の50〜60%、樹状細胞で発現が見られたが、B細胞では発現が見られないという結果が得られ、ヒトとマウスにおけるDNAM-1の発現に大きな違いが無いことを明らかにした。興味深いことに樹状細胞のうちCD8陽性分画ではDNAM-1の発現が強く見られるが、CD8陰性分画では発現が非常に弱い、という結果が得られた。最近、樹状細胞におけるCD8の発現と機能についての報告がなされていることから、mDNAM-1が樹状細胞において重要な機能を持つことが示唆された。
 今後、TX42を用いてmDNAM-1の機能をin vitroおよびin vivoで解析し、生体におけるmDNAM-1の機能を明らかにする。


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