つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100791

ハプト藻ノエラエラブダス科(Noelaerhabdaceae)における円石形成

深谷 順子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員: 井上 勲 (筑波大学 生命環境科学研究科)

背景・目的
Gephyrocapsa 属・Emiliania 属はハプト植物門ノエラエラブダス科に属する微細藻類であり、細胞表面に円石(coccolith)と呼ばれる炭酸カルシウム(CaCO3)の殻を形成する。円石はハプト藻固有の形質であり、直径数μm中に非常に複雑な構造を有する。そのため、円石藻による円石形成のメカニズムの解明は、生理学・物質工学など様々な分野への応用が期待されている。これまでのところ、1992年にYoungによって円石形成の基盤となるV / R modelと呼ばれるメカニズムが提唱され、2004年に代表的な6種の円石藻による円石形成が同modelにより示された。
そこで本研究では、ノエラエラブダス科に属する3種の円石藻の円石形成を走査型電子顕微鏡JEOL JSM-6330Fで観察し、結晶パーツをLia32(葉面積測定ソフト)を用いて測定することにより、4500万年のノエラエラブダス科の歴史の中で形態的に保存・変遷してきた部位を明らかにすることを試みた。

方法
Gephyrocapsa ericsoniiGephyrocapsa oceanicaEmiliania huxleyi の3種をmIMR培地を用い、20℃、12h light:12h darkの条件下で培養した。対数増殖期のこれら1mLをエッペンにとり遠心(12000rpm, 3min, 4℃)し、0.05M NH4HCO3で2回、0.85N H2O2で1回、さらに0.05M NH4HCO3で洗って有機質を完全に除去し、走査型電子顕微鏡JEOL JSM-6330Fで観察した。撮った写真をphase1〜4に分類し、Lia32を用いてinner tube幅・outer tube幅・tube elementの数・CAL(central area length)・CAW(central area width)を3種それぞれにおいて測定した。
 

結果・考察
G.ericsoniiG.oceanicaE.huxleyi の3種はphase3までは同一の形態を示し、phase4でE.huxleyi はdistal shieldの間に隙間が出てきた。G.ericsoniiG.oceanica はphase4まで同一の形態を示し、その後に形成されるブリッジにおいて違いが出てくることがわかった。また、3種のinner tube幅・outer tube幅の長さはphase2〜4を通してほぼ同一であった(Fig3a, b)。しかしながら、tube elementの数はG.ericsoniiE.huxleyi ではほぼ同一であったのに対し、G.oceanica だけ多かった(Fig3c)。そこでCALとCAWを測定したところ、同様にG.ericsoniiE.huxleyi では共にほぼ同一であったのに対し、G.oceanica だけ共に長かった(Fig3d)。
以上の結果から、G.ericsonii の円石形成機構がブリッジ形成段階において分化したのがG.oceanica 、phase4において分化したのがE.huxleyi であると考えられる。さらに3種はinner tube・outer tubeの大きさは変えずに数だけを変えてcoccolithサイズを変化させてきたと考えられる。両tube elementは有機原基(organic base plate)上のnucleation siteにinner→outer→inner・・のように交互に配列されることがわかっているので、tube elementの数はnucleation siteの数の違いによるものである。したがって、nucleation siteの数を決めている遺伝子が3種のcoccolithサイズに違いを与えているものと考えられる。


©2005 筑波大学生物学類