つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100796

hDBHベクターを用いた遺伝子導入による転写因子GATA-3機能欠損マウスレスキューの試み

前田 敦子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員: 高橋 智 (筑波大学 人間総合科学研究科)

<背景 ・目的>
  転写因子GATA-3は発生段階の様々な組織において、その発現が確認されており、GATA-3-/-マウスは様々な組織において発達障害が認められ、胎生11.5日で死亡することが明らかになっている。近年の研究により、GATA-3-/-の胎生致死の理由として、交感神経系でのカテコールアミン、特にノルアドレナリンの欠失が原因であることが報告されている。ノルアドレナリンは胎生10.5日より合成が活発になされており、これを欠失したマウスでは、胎生期に死亡することが現在までに報告されている。ノルアドレナリンはtyrosine hydroxylase(TH),dopamineβ-hydroxylase(DBH)等の酵素の作用により、チロシンから合成される。GATA-3はcaudal部位でのTH・DBHの遺伝子発現を直接,または間接的に正方向に制御しているものと考えられる。そのため、GATA-3-/-ではノルアドレナリンの産生が欠乏状態となり、その結果、心臓の機能不全に陥り早期に死亡するものと推測される。
 そこで、本研究では胎児の発生段階におけるGATA-3の機能解析を目的として、GATA-3-/-の致死性をレスキューしたマウスを遺伝子導入法により作製した。交感神経特異的にGATA-3を発現させることで致死を回避し、交感神経系以外でのGATA-3+/+マウスとの表現系の差異を検証した。
    
<方法>
 ヒト Dbh遺伝子の上流5.8kbの領域はトランスジェニックマウスにおいて、交感神経系特異的に遺伝子発現を制御する機能を持つ。そこで、GATA-3-/-の致死性をレスキューする目的で5.8kbのヒトDBHプロモーターにマウスGATA-3 cDNAを挿入し、交感神経特異的にGATA-3を発現するトランスジェニックマウス(Tg)を作製した。すでに作製されたGATA-3の+/-マウスをTgと掛け合わせ、GATA-3+/-::Tgを作製した。さらに、このマウスを掛け合わせることで、GATA-3のノックアウトマウスの胎生致死を遺伝子導入法によりレスキューしたマウスを作製した。以下、このレスキューマウス(GATA-3-/-::Tg)を用いて胎児におけるGATA-3の機能解析を行った。
・胎生11.5日目以降における致死のレスキューの確認をする。
・レスキューマウスにおけるH.E染色や骨染色などの組織学的な解析を行う。
    
<結果・考察>
668lineと827lineの両lineにおいて胎生11.5日の胎生致死を出生まで延ばすことが可能となり、668lineでは胎生18.5日で53匹中,レスキューマウスは4匹得ることに成功した。しかし,GATA-3をノックアウトしたことで下顎、胸腺、腎臓の形成不全などが観察された。現在、組織切片を作製し、GATA-3+/+マウスとの表現系の差異を詳細に検証している。今後、レスキューマウスの表現系でさらなる解析を行う予定である。

Fig1.

 Fig1. 胎生15.5日のGATA-3-/-::Tgマウス(左)とGATA-3+/+マウス(右)
 


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