つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200100808

トロポニンT遺伝子の構造と選択的スプライシングの進化

油井 一道 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員: 宮崎 淳一 (筑波大学 生命環境科学研究科)

【導入・目的】
 トロポニンT(TnT)は横紋筋の細胞内Ca2+の濃度の変化に応じた筋肉の調節に関わるタンパク質の1つであり、速筋型(fTnT)、遅筋型(sTnT)、心筋型(cTnT)の3種類の遺伝子によってコードされる。これらの転写産物は選択的スプライシングを受けることで異なる多くのアイソフォームを産生し、それらは発生段階や組織に特異的である。そのため、TnT遺伝子の選択的スプライシングの調節機構を明らかにすることは、筋肉の収縮調節や筋発生の調節の分子機構を解明する上で重要であると考えられる。
 fTnT遺伝子の3'側はトロポミオシン、TnC、TnIと相互作用するドメインをコードしていて、5'側より保存的である。鳥類や哺乳類のfTnT遺伝子の3'側には相互排他的な選択的スプライシングを受けるエクソン16,17が存在するが、魚類では構造的なスプライシングを受ける16しか存在しないことがわかっている。これらの選択的エクソンと構造的エクソンをイントロンも含めて比較することにより、選択的スプライシングに関わる配列を決定することを目的とした。そのために、さらに両生類であるアフリカツメガエルのfTnT遺伝子の3'側のゲノム配列を明らかにした。

【実験方法】
 アフリカツメガエルのcDNA配列をもとにプライマーを設計し、抽出したDNAを鋳型にしてPCRを行った。増幅したDNA断片をpBluescript SK+ (KS+)に挿入し、これを導入した大腸菌を増殖させ、DNAの塩基配列を決定した。

【結果・考察】
 両生類であるアフリカツメガエルのfTnT遺伝子の3'側にも鳥類、哺乳類と同様に選択的エクソン16,17が存在していた。そこで、スプライシングに関わる配列についてゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル、ニワトリ、ヒトで検討したところ、ブランチサイトのコンセンサス配列(YNYYRAY)の数には、エクソン16と17の間で有意差が存在した。それゆえブランチサイトの数は選択的スプライシングに関わっている可能性がある。
 ピリミジントラクトに関して、選択的エクソン16ではTYTYTCT、17ではTGTTGTTという特異的な配列が見られた。これらの配列はゼブラフィッシュの構造的エクソン16には見られないので、エクソン16と17の選択に関わっている可能性がある。
 スプライスエンハンサーであるGARモチーフの数は構造的エクソンに多く、選択的エクソンとの間で有意差が存在した。そのため構造的スプライシングにおいて何らかの機能を果たしている可能性がある。
 今後、進化上四肢動物に近いとされるハイギョなどのfTnT遺伝子の構造も明らかにすることで、選択的エクソンと構造的エクソンの間で見られたシス因子の違いについて系統的にさらに検証していきたいと考えている。


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