つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200101980

日本人とマリ人の歩行パラメーターの比較

曹娜英(筑波大学 生物学類 4年)  指導教員: 足立 和隆 (筑波大学 体育研究科)

目的・背景
 歩行は英語のwalkに相当する言葉であり、徒歩や散歩、歩き方などを意味する。歩行のパターンは歩行速度、歩調、歩幅によって決定され、これらが歩行パラメーターである。
 歩行速度は単位時間に歩いた距離(=距離/時間)、歩幅は1歩(step)で進む距離(=距離/歩数)、そして歩調は単位時間当たりの歩数(=歩数/時間)、すなわち歩行のテンポを表す。
 日本人の自然歩行に関する研究は昔からなされていて、歩幅は小さく歩調は速いことが知られている。歩行パラメーターを測定した最も古い記録は1925年の石川を報告である。以降、自然歩行に影響を及ぼす要因と自然歩行を関係を調べるなどの研究がなされて来た。自然歩行に影響を及ぼす要因としては性別、年齢、遺伝、教育などの「生物的および学習要因」と履物、服装、荷物などの「装飾要因」、時代差、地域差、都市化などの「環境要因」が知られている。
 今回、農業と鉱業を中心とする西アフリカのマリの人々を対象に歩行パラメーターを測定しその記録を残すとともに、すでになされている日本人の結果と比較することで、歩行速度、歩調そして歩幅の民族差を明らかにするための資料の一部として役立てばと思う。

方法・結果
日本人の歩行パラメーターは「ヒトの歩行のテンポ−比較動物学の立場から」に載っている男女500人のデータを用い、マリ人はマリbougouniのビデオ(足立先生撮影)から測定した(両方とも自由歩行する成人が対象)。ビデオからの測定は次のように行った。
ビデオには人の通る流れと平衡に、カメラから近いところから遠いところまで10回にわたって3mのものさし(15cmの20コマが並んでいるもの)が映っている。テレビ画面にOHPシートを貼り、ものさしを持つ人の手で隠れた両端(3コマ)を除いて2.4mのものさしをOHPシートに写した。写した線は左右に散在しているので真中にくるように描き直した。カメラに近いほうは長く、遠いほうは短く描かれFig1のようになった。


Fig1
赤い線の間の水平線が2.4mであり、垂直線は歩行速度を測る時便宜のため描いたものである。

 また、ビデオ画面の右下にコマが示されており、1コマあたり1/60秒なので時間を測ることができ、歩行パラメーターを求めることができる。人が特定の水平線を歩きはじめ、その水平線と交差する垂直線にちょうど肩が来た時と歩き終わる頃再び別の垂直線が肩とあった時のコマを読みかかった時間を測った。歩いた距離は2.4mなので歩行速度がわかる。また、ステップを1歩として、かかとが地面についた時と2歩進み終わってかかとが地面についた時のコマを読んで時間を測った。それを2で割ることで1歩当たりの時間がわかる。その逆数が歩調である。歩幅は画面から直接測るのではなく、(歩行速度)/(歩調)の式で計算した。歩行速度や歩調は日本人のほうが大きく、歩幅はマリ人のほうが小さいという結果を示した。


©2005 筑波大学生物学類