つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200501200109011

除草剤パラコートによる非光依存性のイネ根部伸長抑制作用

長谷川 寛 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教員: 松本 宏 (筑波大学 生命環境科学研究科)

【背景】

パラコートは植物の茎葉に処理すると非選択的に枯殺作用を示す接触型非ホルモン型の除草剤である。パラコートは光合成の光化学系Ⅰの還元剤から励起電子を奪うことでフリーラジカルを生じる。これが自動酸化によりもとのイオンに戻るときに酸素に電子を渡して生ずるスーパーオキシドやそれから派生するヒドキシラジカルにより植物細胞に酸化障害をもたらす。したがって光合成を行う緑色細胞で、さらに光照射により強い殺草活性を示す。

ところがパラコートは暗所においても植物細胞に生体抑制作用を示すことがある。しかしその作用機序は未だに不明のままである。

本研究ではパラコートが暗条件化でイネ科植物の発芽とその後の生育に及ぼす抑制作用の発現機序を明らかにすることを目的とする。

【材料】

  • イネ:(Oryza sativa L. cv. Nipponbare)
  • 試薬:paraquat(1,1'-dimethyl-4,4'-bipyridinium ion)

【方法】

  • 発芽試験*パラコート溶液(100μM)に種子を一秒間浸漬し2時間風乾し発芽試験に供した。
  • 生育試験*処理方法は発芽試験と同様。処理後人工気象室内、暗所で30℃の条件下におき2日後種子を明所と暗所にわけて1葉期まで生育させた後、根と茎葉部の長さを測定した。
  • 薬剤処理*2葉期まで生育したイネの根部をパラコート溶液(1μM、10μM)に一時間根部を浸すことで処理を行い再び水耕液に移して人工気象室内で生育させた。
  • 新鮮重測定*1、3,5日後の根部と茎葉部の新鮮重を測定した。
  • MDA測定(TBA法):サンプル(0.4g)に0.1%TCA 溶液 4mlを加えホモジナイズし、遠心分離(10000g, 20m)後、上清を0.5ml採取した。0.5%TBA solution 1mlを添加し、95度以上で30分インキュベーションした。氷上で冷却し反応を停止し、遠心分離後(10000g, 5m)、上清を分光光度計にて測定した。

【結果】

  • パラコートは発芽に対する影響はなく発芽後の生育を暗所においても濃度依存的に抑制した。
  • 茎葉部では目立った生育抑制作用が確認されなかった。
  • 薬剤処理後3日後、5日後、処理区の根部においては顕著な生育抑制作用が現れた。肉眼で確認したところ処理区では根の長さは無処理区と比べてそれほど差が確認できなかったが根の量に明確な差があった。
  • MDAの量に関しては処理後3日後、5日後でもcontrolと比較して増えてはいなかった。

【考察】

パラコートは光化学系Ⅰから電子を奪う以外の作用を持つ。

MDAは脂質の過酸化の指標である。根において生育抑制作用が現れているのにも関わらずMDAの量が処理区で増加していないということはパラコートによる根の生育抑制作用が酸化障害によるものでないことを示唆する。

【今後の予定】

イネ以外の植物を用いて同様の生育抑制作用が確認されるか否かについて検討し、細胞分裂への影響を調べることを検討している。


    ©2005 筑波大学生物学類