つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200512YK.

キャリアデザインルームガイダンス
〜『もったいない』学生にならない方法〜

草野 祐子(生命環境科学研究科・第二学群キャリアデザインルーム チーフアドバイザー)

 生物学類のみなさん、はじめまして。私は1999年3月に第二学群人間学類を卒業した草野といいます。学類の先輩ではありませんが、でも、第二学群出身ということでみなさんの先輩として、また、キャリア支援を生業とするコンサルタントとして、みなさんにぜひお伝えしたいことがあります。どうぞよろしくお願いします。

 現在、生物学類卒業生の進路は90%が進学、ということですが、みなさんは卒業後どうしようと思っていますか?迷わず進学、と思っていますか?もし進学するのだから「キャリアデザインはまだ先だ」と考えているとしたら、その考えは今日、180度変えてください。キャリア=仕事、ではありません。それに、就職活動なんてまだまだ先のこと、と思っているとしたら、とんでもない大間違い、です。5年なんてあっという間にたちます。これは脅しとかではなくて、本当のことです。今日はみなさんに「本当のこと」をそのまましっかり理解してもらえたら、と思っています。

■キャリアデザインの必要性。

 キャリアは仕事ではない、といいましたが、ではキャリアとは何か?キャリアとはみなさんのアイデンティティそのもの、だと考えてください。つまりキャリアデザインとは『自分自身がどう生きていきたいか、生きていくか』について考える、ということです。みなさんはモラトリアム、という言葉をきいたことがありますか?モラトリアムとは「猶予期間」という意味で、大学生の時期は大人になって社会生活を始める前の猶予期間にあたります。ですから今、みなさんは自分のこれからについて自分で考える時期にいます。何かを決定せずに迷っている様子をモラトリアムといっています。

■『典型的筑波大生』とは?

 みなさんはご自身を『典型的筑波大生』だと思いますか?それとも典型的ではない、と思っていますか?今回、1,2年生のみなさんにお話をするにあたり、筑波大生のイメージを何人かの方にきいてみました。そこで出てきたイメージは・・・●まじめ●あかぬけない●いい人●地味●遠出をしない・・・など、です。どうでしょうか?もしかするとみなさんの中にはこういう声に反発を覚える人がいるかもしれません。というより、それはあやまったイメージだ、と反発してほしいと思います。でも、このようなイメージがあるということはまぎれもなく事実です。まずはそのことを理解し、アタマにいれてください。

■『もったいない』学生ってどういう意味?

 就職活動を終えた学生や社会人になっている先輩たち、企業の人事担当者や大学の先生まで、筑波大生の話をしていると、よく「筑波の学生さんは『もったいない』ですよね」という言葉がきかれます。『もったいない』は漢字で書くと「勿体無い」で「妥当でない」「不届きだ」とかいう意味だと辞書にかいてあります。要するに「筑波大生は恵まれた環境で勉強して優れた技術や専門知識をもっていて、ポテンシャルの高い学生さんもたくさんいるのに、なかなか社会的な評価を受けることができていない」と思われている、ということです。この事実をみなさんはどう思いますか?

■『もったいない』5つの力。

 先ほどお話した『もったいない』部分はいくつかにわけることができます。それはみなさん、ひとりひとりのもっているリソース(みなさんの人的ネットワークや大学生という身分、自由に使えるお金や情報、時間などのこと)別にとらえることです。人によってどの部分で『もったいない』状態に陥っているかは異なります。この考え方は筑波大生に限った考え方ではなく、不完全燃焼の毎日を送るすべての人がこの点に気をつけることで明るさを取り戻していくもの、といえます。また、この力をもっとも磨けている人が世間でいうところのいわゆる「お金持ち(=rich man)」といえるでしょう。

 環境が人を育てる、ということは真理だと思います。ですが、私たちは意志をもっています。意志によって自分の行動を変えることができます。みなさんに意志がある、という前提でガイダンスでは実際にどんな風に行動を変えていけばよいか、5つの点からお話していきたいと思います。

《『もったいない』5つの力》
 @コミュニケーション力→「人」に関するリソースを活かせない
 Aスキル・専門能力→「空間」に関するリソースを活かせない
 Bマネーコントロール力→「カネ」に関するリソースを活かせない
 C情報収集力→「情報」に関するリソースを活かせない
 Dタイムマネジメント力→「時間」に関するリソースを活かせない

■『もったいない』学生にならない方法。

 ここまでお話してきましたが、周りからどんなに『もったいない』と言われても自分たちはそれで満足なんだからいいじゃないか、という人もいるかもしれません。でも、満足しているのは、今ここにいてまだまだ自分が自分の力で生きていくのはずっと先のこと、と考えている、この瞬間のみなさんです。5年後のみなさんが今のみなさんを振り返ったときに『もったいない』と思ってほしくない、と私は思います。大学受験のときのことを思い出してください。みなさん、「もっと早くから勉強しておけばよかった」と思った記憶はありませんか?キャリアデザインも同じです。今のみなさんにはまだまだ無限の可能性があります。でも、それは永遠に続くものではありません。今、自分自身がどう生きていくのか、どう生きていきたいのか、を考え、行動を起こすことで、可能性が有限のものになってもかわりに選択肢が増えていきます。今、リアルに考えずに大学院に進んでさまざまな制約のある中ではすでに可能性の幅は狭められ、選択肢も決まってしまい、あとはそれに自分をあてはめるのみ、という『もったいない』院生になってしまいます。『もったいない』学生にならない方法とはすなわち、可能性を選択肢に変えるという自覚をもち、行動を起こしていくことなのです。そして、大学院に進むみなさんだからこそ、今真剣に選択肢を増やすためのアクションをしていってほしいと願っています。

■キャリアデザインルームの活用法。

 キャリアデザインルームではみなさんが『もったいない』学生にならないために今、何を考えたらよいかを一緒に考え、行動するための環境作りに取り組んでいます。例えば先生方や卒業生、修了生のみなさん、企業で実際に働く社会人のみなさんにインタビューにでかけたり、というような活動から、他の人がどのようにキャリアデザインを考えているのかを共有する機会、どうしていいか全くわからないときにこたえをみつけるためのカウンセリングなどをしています。また教職に取り組んだり、公務員試験、留学やTOEIC、TOEFLといった能力アップのために有益と思われるような情報、企業の人からきいた裏話や先輩たちの体験談など、といったみなさんが進学後に進路を決定するにあたって必要となってくる情報の収集にも取り組んでいます。自分で取り組める人はどんどん取り組んでください。先延ばしするくらいならキャリアデザインルームのスタッフ(※サポーターという相談相手になってくれる人は4年生の先輩です)をつかまえてまずは10分でも自分の将来のことを考えてみてください。

■卒業生として―後悔しない人生を。

 私は筑波大学に在学した4年間、今振り返るととても充実した4年間だったと思います。当時はやりたいことを手当たりしだい全部やっていただけ、でしたが、それが知らず知らずのうちに自分を『もったいない』学生にしない毎日につながっていました。今、キャリアコンサルタントとして思うことはもっと学生のみなさんに夢をもってほしいということです。よくも悪くも情報が氾濫する今だからこそ、リアルなつながりを大切にして自分自身のキャリアデザインに取り組んで、自分の思う道を進んでいってほしいと思います。そしてみなさんひとりひとりが後悔しない人生を歩むことで、きっと『典型的筑波大生』のイメージもかわっていき、『もったいない』学生ではなくなっていくことを目標に、これからもキャリアデザインルームの活動を展開していきたいと思います。

Communicated by Shinobu Satoh, Received December 20, 2005.

©2005 筑波大学生物学類